『世界』no.942 2021年3月号

 

『世界』2021年3月号(Vo.942)

『世界』2021年3月号(Vo.942)

  • 発売日: 2021/02/08
  • メディア: 雑誌
 

 

 

まず冒頭の口絵、「ことわざの惑星」、今回はエストニアのことわざ、各国の言語とかわいいイラストで、これは毎回楽しみ、つかみはOKな世界。

 河合香織分水嶺」は、専門家会議解散までを描いていったん連載終了、そして単行本化されるとのこと。単行本になったらもっと広く読まれて話題になるでしょう。

 山岡淳一郎「コロナ戦記」は「ICU病床を確保せよ」で、厚労省の初期の方針が医療現場の実情と合わなかったこと、病院側はそんな中でどう医療崩壊を回避しようと努力したか、その例として静岡県病院長会議の取り組み方がレポートされている。

 森さやか「いま、この惑星で起きていること」は、ニュースで見て記憶に新しい自然界のできごとがわかりやすく解説されている。

 師岡カリーナ・エルサムニー「すぐそこにある世界」では、日本ではフツーにだれでも使ってる、でもなぜかアラビア語にはいまだにない単語、そして、アラビア語の流行歌に出てくるだれでも口ずさむ言葉なのだが他言語だとうまく表せない単語が紹介されている。翻訳のむずかしさ、ですね。読んでいて、なぜか「惚れた」という日本語を思い出しましたが俗っぽすぎるかな、アラビア語では古語に属するのでふさわしい言い方を万葉集あたりに探りたいと語っています。古文に強い方、いどんでみてください。

 北條勝貴「亡所考」、いわゆる「亡所」なるものについていろいろ調べ考えていく、これはイラスト(おぐらたかお)とコラボすることでいいグルーヴを放っている連載です。

 イラスト、他の連載でも「読書会という幸福」とか「お許しいただければ」とか、連載ものに添えられた絵を見るのが好きです。「すぐそこにある世界」だと、上段と下段を分けるラインがいい味だしてるし。

 『世界』を購読するようになったきっかけは、多和田葉子徐京植(ソキョンシク)の往復書簡の連載がおもしろかったからですが、あれもイラストがよかったんですよ!    

 あと岩波だと、巻末の新刊情報で見られるイラストというか、カットと読んだ方がいいんでしょうかね、岩波少年文庫のゾウさんとカンガルーさんが街灯見上げてる、あれふたりの表情がいいんですよ、それとかちょっとしたマークみたいな絵とか。

 雑誌読むのが好きな人には、ああいう挿絵が好きな人がいると思うんですね、なんかそれも、ざらついた雑誌の誌面にちょこっといるからかわいらしさが沁みてくる、みたいなね。

 週刊金曜日でも、まず思い出すのは、昔金曜アンテナにいたカブトムシさんですよ。

 

 久しぶりに文藝春秋買ったのにケロリンがいなくなってた、これが思いのほかさびしかったので、雑誌のイラストやカットへの愛をつぶやいてみました。

 

ケロリンのイラストは、こちらで見られます。

www.toyamamegumi.co.jp

 

 

 

久しぶりに文藝春秋を買ったのだが

 

 文藝春秋で私がいちばん楽しみにしているのは表紙の絵と、折りたたみになっているびよんと広がる目次の上の横長のイラストなのだが、今号もそれらは期待を裏切らない、ずっと眺めていて飽きないすばらしさ。

 で、ちょっと気がついたこととして、昔はページの下隅に入っていた、ケロリンやかるかんやひよこや白松がモナカの広告がなくなってるのね。なんかさびしい。

 ああこのさびしさ、前にも感じた、というので思い出すのが、新聞に定期的に掲載されてるヒサヤ大黒堂の広告。あれは長年ずーっと大きな字と漢字にはふりがなつきで、図とともに、各種痔の様相を小学生にもわかりやすく示していて、あの動かざること山のごとし的不動感にはいつも安心感を覚え、載るのを楽しみにしていた、あれを見ると癒されていた。ヒサヤ大黒堂、不動なり! と。ところが、ある時期に、デザインというかレイアウトっていうんですかね、とにかく様式が変わりましたね。今の時流にあわせてという風情のスマートでほっそらとした見た目の広告に、ね。ああ、ヒサヤ大黒堂も時流に乗っていくのか、という、私ひとりヒサヤ大黒堂に取り残されたような寂寥感を覚えました。

 文藝春秋もそうなんでしょうか。しかしぱらぱらしてみると、ヒガシマル醤油はきっちり広告入っているので、企業のほうの事情なのかもしれません。

 

三上修『電柱鳥類学』岩波科学ライブラリー 298

 

目次

  1. 電柱と電線の基礎知識
  2. 鳥、電線に止まる
  3. 感電しない鳥たち
  4. 鳥、電柱に巣を作る
  5. 電力会社、鳥と戦う
エピローグ 電柱鳥類学の将来

電柱鳥類学。まだ正式な学問名称ではない。しかし、都市に暮らす鳥たちを追ってきた著者にとっては、電柱がこの世に現れて150年、そしてこの先50年もすれば電線の地中化によって電柱は姿を消すかもしれない、つまり、長い歴史の流れの中で、鳥と電柱が関わり合うという稀な時代を我々は生きているのだ、電柱・電線に止まった鳥たちの姿をぜひ記録しておかなければ! という秘めたる情熱がひたひたと伝わってくる快著、です。

 身近にありながらよく知らないでいた電柱や電線について教えてくれるのが、まずうれしい。

 また、「スズメは電線にとまってるけど感電しないの?」という、だれでも一度は思ったことのある謎についても説明がされていて、あ、そうなんだ、になる。

 そして、電柱に巣を作る、それも意外なところにスズメが巣を作っていたりする、ぼーっとしているだけでは気がつかない鳥の動きがわかり、人と近いところで暮らしている鳥に興味がどんどん湧いてくる。鳥からすれば、人の動きも人が作る事物も、環境の変化、ある意味で自然の変化になるのかもしれない。

 口絵の写真やコラムも含めて、読みやすくておもしろく、噛めば噛むほど味がでる、そんなかんじです。岩波科学ライブラリーはいいね!

 

 この著者は電柱が好きだそうですが、私も好きです、そして、電柱といえば思い出すのは夢野久作の猟奇歌

春の夜の電柱に
身を寄せて思ふ
人を殺した人のまごゝろ

これも、「電柱」というのがいいんだけど、やがてこのかんじ通じなくなるかもしれないんだね。ま、鳥は、感傷的になることなく軽やかに変化に適応していきそうですね。

www.aozora.gr.jp

 

 

日本最古級の哺乳類の化石発見

www.shikoku-np.co.jp

 

www.dinosaur.pref.fukui.jp

 

人がまだ気づかないでいるものはいーっぱい堆積してる。

気づかなくていいものもあるかもしれないし、気づかないからないものになることもない。

 

 

シャムワニ

www.afpbb.com

 

記事を読むと、人目につくところに出てこないほうがいいんじゃないかというのもあるんですが、お写真を拝見できるのはとてもうれしいです。もう人と出くわしたりせず平穏に暮らせることを祈っております。

シャムワニ、という語感もちょっといいですね。シャムワニ、シャムワニ。

 

 

森さんがなんか言ったとニュースで騒ぎになってますが、どうしてもこの夏オリンピックをするというんなら、会長は森さんでいいんじゃね? 仮にこの夏開催したら、なんやかんや言われるのは目に見えてるんだから、そうなったとき森さんならだいじょうぶだろうなって思っちゃうので。

 

 

 

 

ヨコヅナイワシ

www3.nhk.or.jp

形態や遺伝子の解析から、「セキトリイワシ」という深海魚の仲間の新種で、この仲間の中では最も大きいことから、研究グループは「ヨコヅナイワシ」と名付けました。

「ヨコヅナイワシ」のうろこは鮮やかな青色で、胃の内容物や食物連鎖の中での位置を調べる最新の分析方法から、駿河湾の深海の食物連鎖の最上位に位置することが分かったということです。

 

関取より大きくて上位に位置するから横綱。ユウレイコンニャクウオ、なんていうのもありましたが、深海魚さんたちには超直球のネーミングがなされることが多いようですね。

でも、なんで、イワシ

 

 

 

スーパースプレッダー

www.fnn.jp

 

『世界』2020年10月号(no.937)から連載が始まった、河合香織分水嶺 ドキュメント・コロナ対策専門家会議」では、日本でコロナ対策にあたっている専門家たちは当初から “スーパースプレッダー” の存在に気づき、そのことを念頭に置いて "クラスター対策" をしたことが分かります。

 少し長くなりますが、一部引用しておきます。去年(2020年)二月のことです。

 押谷はこの日、フィリピン保健省を訪れ、その後マニラにあるWHOの西太平洋地域事務局に向かった。そこで押谷が流行初期の最大の鍵だと思っていたことを、西太平洋地域事務局長である葛西健に切り出した。
「前向きに接触者調査をやっても、全然感染者が出てこないんです」
「前向きの接触者調査」とは、確認された感染者の濃厚接触者を探し出して徹底的に検査する対策で、SARSでもこの対策がとられた。押谷はその前の週に、研究のためシンガポールに行っていたが、現地の保健省担当者とコロナ対策について話した時にも同じ感触を得ていた。
 葛西は言った。
「実はうちで見ている結果も同じなんです」
 その時に、押谷はこのウィルスの重要な特徴、多くの人は誰にも感染させないが、例外的に一人が多数に感染させる例がある可能性に気づいた。そう考えなければ、流行が起きている理由の説明ができない。このことはのちに実証されるのだが、この時はまだエビデンスはなかった。なぜあの時点でわかったのかと尋ねると、押谷は「簡単な算数」の問題だと言う。
「基本再生産係数といって、一人の人が平均で何人に感染させているかの数字がありますが、それが一を超えないと流行が起きない。多くの人が誰にも感染させていないのに流行が大きく広がっているということは、一部に多くの人に感染させる人がいないと算数として成り立たない。ただそれだけのことです」
 ということは、多くの人に感染させる集団、クラスターを起こさないようにする、あるいは発生したクラスターを探して感染源をつぶしていくことが対策になる。クラスターとクラスターが連鎖しなければ、大きな流行にならないはずだ。これが「クラスター対策」と呼ばれることになる。そのためには後ろ向き、つまり感染源を見つけなければ、いくら前向きに濃厚接触者の調査をしてもクラスターは見つかるわけがないと押谷は考えた。

(引用元:『世界』no.937 (2020年10月号) p.32-33、 河合香織分水嶺 ドキュメント・コロナ対策専門家会議 第1回』) 

SARSエボラウィルスはほぼすべてが重症化し、発症前に他の人に感染させることがないものだったそうで、だから「前向きな調査」で封じ込められた。しかし、新型コロナウィルスは軽症者、無症状者が多く、発症前の人でも他人に感染させる特性がある。それを踏まえて、従来のやりかたではない、新型コロナウィルスに合った対策を考えての「クラスター対策」となったということです。くわしくは『世界』no.937を読んでみてください。

 

 それから一年たって、状況はまた変わってきているのでしょう。ウィルス自体が変異をくりかえしていますし、感染の広がり方も一年前とは変わってきているのかもしれない。日本の対策チームはずっと日本の状況変化を追いながら市民にも協力を呼び掛けていますし、まず感染拡大を押さえ込まなければ経済活動も活発にはなりません。

 思いつきで日本のコロナ対策に文句をいうより、対策チームがいっていることにしたがうのが一般人にとっては自分のためになるのではないでしょうか。

 『世界』は、いま2021年2月号が出ていて、『分水嶺』と『コロナ戦記』の連載は続いています。ツイッターで細切れの情報を追うよりこれまでの経緯やそれを踏まえての問題点の整理やこの先どうすればいいかなど、面として絵になって見えてきます。ぜひ読んでみてください。

 

『世界』2021年2月号(Vo.941)

『世界』2021年2月号(Vo.941)

  • 発売日: 2021/01/08
  • メディア: 雑誌
 

 

引用した部分が掲載されているのは2020年10月号です。

 

『世界』2020年10月号(Vo.937)

『世界』2020年10月号(Vo.937)

  • 発売日: 2020/09/08
  • メディア: 雑誌