ICカード

本日の四国新聞一面トップは次の記事。
タスポ情報、検察に提供/日本たばこ協会 - 四国新聞社
関連記事として「捜査照会 携帯・定期・クレジット… 個人情報 "筒抜け"」というのも載っていた。応じるかどうかは任意。役所や企業側が提供を拒めば、当局が裁判所に令状請求して差し押さえる場合もあるとのこと。
タスポは、いわゆるICカード。政府はICカードの普及を目指している。

政府のIT戦略本部による「e-JAPAN」計画の大号令の下、各省庁がさまざまなプロジェクトを推進中だ。ICカードの普及を目指し、全国21の地域がコンソーシアム(連合体)を組んで、その多目的利用を競っている。100万枚以上の交付を目標に、2000年度から予算化された。
経済産業省から、参加自治体に一定のモデルが提示されている。
1枚のICカードに、住民基本台帳、被保険者証、身分証明書、印鑑登録証明書、公的施設の利用者証、公的年金カード、および鉄道定期券、キャッシュカード、クレジットカード、病院の診察券、各種会員権、同プリペイドカード、また将来の導入が考えられている納税者番号を保護する暗号鍵などの機能がまるごと搭載されたイメージ図が、同省商務情報政策局の資料に描かれていた。
(中略)
同省資料にはさらに、ICカードを "サイバー社会へのパスポート" と位置づけ、大要こんなシナリオを記していた。
――住民基本台帳法改正に伴い全国の市町村はICカードを交付するが、住民票の請求にしか利用できないのでは誰も欲しがらないし、希望者が少なければ費用対効果も悪い。そこで官民の多彩なアプリケーションを相乗りさせて利便性を高め、一気に普及させる。特に健康保険証との連動が望ましい。関係省庁が連携して実行に当たるべし――。
(引用元:「住基ネットICカードは便利ですよ。なければいずれ暮らせなくなりますよ」斎藤貴男『不屈のために』ちくま文庫

プリペイドや定期券の機能も持たせて、多機能カードとして普及させようという構想。そうなればICカードに個人の行動記録がすべて蓄積されるようになる。
斎藤貴男は、携帯電話が嫌いだといっても街中から公衆電話が消えてしまえば持たざるを得なくなるのと同様に、ICカードを携帯していなければ生活できないように社会が作り変えられれば嫌でも持たなければならなくなるだろう。納税者番号制度と連動するようなことになれば、ICカードを拒否する者すなわち脱税の意思ありと見なされてしまう恐れもある、と、危惧している。
また、斎藤貴男『分断される日本』(角川書店)によると、厚生労働省は、ICカードに健康情報をすべて書き込み、万が一交通事故などにあって病院に運び込まれ当人の意識がない状態でも、ICカードを見ればその人の健康状態が医者にすぐわかるようにしようと構想。ICカード化された「健康手帳」ですね。これは最近臓器移植法改正で「脳死=人の死」と一律に規定するA案が可決されたことを考えると、ちょっとこわい想像が広がっていきます。A案を推進した人たちの中には「臓器は社会資源」「臓器の自給自足を目指す」などと言っていた人がいるのですから。
個人情報は、私企業にとってはダイレクト・マーケティングの材料でしょうが、国家権力にとっては市民の監視にまず役立つものでしょう。政府の方針に異を唱える市民運動に参加している人などがまずチェックされることになりそうです。すでにビラ配りをしていただけで逮捕されたりする例が出ていますし。
住民基本台帳は、自衛隊の勧誘に利用されています。岩波『世界』2009年8月号の布施祐仁「自衛隊経済的徴兵制の足音」では、愛知県蒲郡市に住む上田さん(仮名)の自宅に突然自衛隊の広報官二人がやってきた例が紹介されていました。中学三年生の息子さんを陸上自衛隊少年工科学校へ勧誘する目的で訪問したのです。

突然の訪問に驚いた上田さんが「何でうちに中学三年生の息子がいると分かったのか」と問い質すと、広報官らは「市役所で住民基本台帳を閲覧させてもらった」と答えたという。
このほかにも、「自宅にいきなり自衛隊から勧誘のダイレクトメールが届いて驚いた」といった話をよく耳にするが、こうした個人情報はたいていの場合、市町村から自衛隊に渡っている。個人情報保護の観点から閲覧を拒否している広島県福山市など一部の自治体を除き、全国のほとんどの市町村が自衛隊による住民基本台帳の閲覧を認めているからだ。
さらに自衛隊は、閲覧の場合それを書き写すために膨大なマンパワーが必要になることから、18歳から26歳までの「適齢者情報」を名簿化して提供するよう市町村に強く求めている。
(引用元:布施祐仁「自衛隊経済的徴兵制の足音」 岩波『世界』2009年8月号)

自衛隊経済的徴兵制の足音」は、経済危機の影響で、自衛隊への志願者が増えている模様をルポしたものです。くわしくは『世界』2009年8月号をお読みください。
次の選挙では政権交代が起きるのではないかといわれていますが、仮にそうなったとして、現在進行している日本の監視社会化を見直す可能性はあるのでしょうか。できれば、そうなって欲しい。
斎藤貴男は、早くから日本の監視社会化に警鐘を鳴らしてきたジャーナリストですが、斎藤氏が住基法に関心を持ったのは、少年の頃、一度持ち出されて廃案になったというニュースを知った時で、住基法にものすごく不気味な印象を持ち、こんなことを考えている人がいるのが怖いという記憶が残っていたそうです。そして、『仮面ライダー』のショッカーというのは、廃案になってしまった住基ネットを手に入れて日本を支配しようという設定のマンガだったとか。
仮面ライダー』、私は子どもの頃テレビで見ただけなので、元のマンガがそういう設定だったとは知りませんでした。斎藤氏にしてみれば、今の日本政府はショッカー並みのとてつもない支配者になってしまったということになるのでしょうか。
監視社会化については、斎藤氏の本に詳しいので、ぜひ読んでみてください。

分断される日本

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