宇宙戦争

DVDで鑑賞。
異星人が地球を侵略する。
地球をずっと観察していたものがいた、そうこのおはなしは始まる。まるで人間が顕微鏡で微生物を観察するように。木の葉に溜まった水滴の中に観察カメラが侵入していくような映像、微生物、それを体内にもつ単細胞生物、そして……だんだんとカメラはより大きな生き物の姿をとらえながら引いていき、上空から地上の人々の動きを映し出し、活動する人間の表情をとらえる。
そんな地球上の人間たちをうらやむ異星人がいた。彼らが地球を侵略し始める。
各地を雷をともなう嵐が襲来、雷が落ちた地点で地面が裂け、地中から巨大なタコのような形の戦闘機械トライポッドが出現。街は破壊され、人々は殺害されていく。
レイ(トム・クルーズ)は、ちょうど離婚した妻が連れてきた息子と娘と共に家にいたのだが、そこでも空に異変が起き、雷に割られた地面からトライポッドが現れ、街は戦時中空襲されたかのような状態になる。レイは子供二人を連れ、戦場と化した街から脱出しようとする。
まったく状況が見えないままトライポッドに襲撃され逃げ惑う市民、圧倒的攻撃力により破壊されつくす街並、瓦礫と化した街にトライポッドに応戦するべく入ってくる軍隊。これは、現代アメリカの市街を舞台にした戦争映画である。スピルバーグは、米本土が戦場となる様を見せてくれる。
趣味よく抑えられた色調の中、破壊の見せ場が緩急極めて途切れることなく続く。トム・クルーズが注目点となりながら、場面がどんどん展開していく。避難民が乗り込んだフェリーがひっくり返される場面もあったが、これを見ているとジェームズ・キャメロンタイタニック』なんてのはどんくさい映画だったのだなと思ってしまう。スピルバーグはすごいぜ。
トライポッドは、異星人に操縦される戦闘機械なのだが、タコかクラゲのような形で、まるで生き物のように動く。狭いところへ入り込んで探索するカメラつきの触手もまるでおとぎの国の大蛇のようだ。表情がある。生きている。『ジェラッシク・パーク』のティラノザウルス、『激突!』の巨大トラック、スピルバーグの魂は人間でないものに宿るらしい。
スピルバーグ作品では、登場人物の描かれ方が異星人が人間を観察しているかのような冷酷な目でとらえられるのがふつうで、例外的に小さな子供だけには共感を持つまなざしが向けられる。そして、小さな子供を守ろうとする母親は好意的に描かれている。
この映画、レイが父親として子供を守る過程を追う作品でもあるのだが、父性はあまり出ず、小さな子供を母親のもとへ送り届ける係の人という印象を受けた。トム・クルーズのアニメ顔のせいかとも思ったが、やはりこれはスピルバーグの癖なのだろう。
スピルバーグにとって、大人とは未だに許せない存在であるらしい。手塚治虫的人間嫌いというか、それのもっと孤独化したものをいつも感じさせる。そして、スリルとサスペンスに満ちた映像を完璧に撮り上げることで、そんな自分を世界に強引に存在させてしまう。そのまんまのスピルバーグを認めさせてしまうのだ。「ぼくはまだ許していない!」この思いを潰されないために、あらゆる技術と美術を注ぎ込んで、有無を言わさぬ映画を作りあげてしまう。
スピルバーグ、最強。