シンプル・プラン

DVDで鑑賞。
思わぬ大金を手に入れた兄弟の物語。
冒頭、黒々としたカラスのどアップ、その後に続く雪の降り積もったアメリカの田舎の風景、木の枝も雪で覆われた銀世界。キツネが走り、鳥小屋の隙間からニワトリを覗く。飼料会社で働く男のモノローグ、正業につき、愛する妻と、隣人にも恵まれ、自分は幸せだった、そう過去形で語る。
主人公のハンクには、失業中の兄・ジェイコブがいる。大学を出てよき市民として認められたハンクに対して、ジェイコブは、友人・ルーとつるんで酒を飲み、だらしがない困った奴だと見られている。
ハンクは、ジェイコブとルーといっしょに、父親の墓参りにいく。その帰り、三人が乗ったトラックの前を横切ったキツネを避けようとしてトラックを木にぶつけてしまう。止まった車の荷台から、ジェイコブの愛犬・メアリー・ベスが飛び降り、キツネを追う。自然保護区の森に入っていくメアリー・ベス、犬を連れ戻しにいく三人の男。雪が降り積もった森の中に入ると、木々の枝にカラスが何羽もとまっていた。雰囲気がおかしい森、そこで三人は思わぬ大金に遭遇する。
まじめなハンクは警察に連絡しようというが、ジェイコブとルーはいただこうぜと言い出し、ハンクも次第に同調する。しかしそのときから、三人の日々は変調していく。
超カジュアルなジェイコブやルーより、きまじめなハンクのほうが、段々きまじめに悪いほうへ変化していってしまうのが、いかにもありそうでこわい。
さらに怖いのがハンクの妻・サラかもしれない。ハンクの話を聞いて、最初は警察に届けるべきだと言うのだが、現金を目の前にして様子が変わってくる。そして夫に、疑われないでいるにはどうすればいいかを提案する。一見するとぷちマクベス夫人なのだが、彼女の入れ知恵が元でハンクら三人はさらに迷路にはまっていく。雪玉が迷走しながら膨れ上がって、男たちを押しつぶしてしまうような展開になる。
兄弟が墓参りに行ったとき、父の墓の前に積もった雪を除けると枯れた花が出てくる。誰が来たんだろうというハンクにジェイコブが「オレだ」と答える。ジェイコブは父親に対してハンクにはわからない愛着を抱いていた。借金が返せず手放した父親の農場を買い戻して、ここで生きたい、ジェイコブは切ないほどそう願っていたのだ。
現状では、愛犬メアリー・ベスだけがジェイコブの真の友。このメアリー・ベス、実に存在感がある。終盤、ジェイコブの足元に寄り添うようにいっしょに森の中に入って行き、森の中で兄弟が重い会話を交わすそのすぐ側にあったメアリー・ベスの姿が、ハンクだけが取り残された場面になると消えてしまっているのが印象的。象徴的というべきなのだろうか。
純白の雪景色の中、小さな夢に魅せられた小市民が歯車を狂わせていく。音楽にかすかなホラー映画的響きを感じた。雪に覆われカラスが住まう森もメルヘンの世界に重なる景色に見える。そんな中、登場人物の動きが生々しく浮かび上がる作品でした。