劇団若獅子「一本刀土俵入」

アルファあなぶきホールで観劇。
水戸街道の宿場にある茶屋旅籠、安孫子屋の店の前で、腹を空かせた無一文の取的がヤクザに絡まれるが、安孫子屋の酌婦お蔦によって助けられる。取的は駒形茂兵衛という名で、力士になるために江戸へ行く途中だと語る。茂兵衛の身の上を聞かされたお蔦は路銀を渡し、立派な力士になるようにと力づける。
十年後、水戸街道に現れた駒形茂兵衛は博徒になっていた。力士になる夢は果たせなかったが、十年前に世話になったお蔦にあのときの礼をしたいと思い、お蔦の居場所を探す。酌婦をやめたお蔦は娘と二人でひっそりと暮らし、消息不明の夫の身を案じていた。そのころ、お蔦の夫はヤクザに追われていた。ヤクザはお蔦と娘の住む家にまで乗り込んでくる。
駒形茂兵衛が、お蔦に恩返しをするときがきた。
駒形茂兵衛を笠原章(劇団若獅子)、お蔦を市川亀治郎が演じる。
劇団若獅子は新国劇を継ぐ劇団ということで、芝居全体は新国劇調と見ていいのだろう。歌舞伎は見たことがあるけれど、新国劇は見たことがなかったので、歌舞伎と似ているようでどこか異質な味わいがおもしろかった。台詞回しが歌舞伎よりもカジュアルな響き、声の出し方もちがうのかな。亀治郎が出てくると、声のかんじが歌舞伎調に聞こえて馴染みやすく、新国劇にも違和なく入っていけた。お蔦が駒形茂兵衛を見送ったあと、三味線を爪弾きながら歌うのがなんともブルージーで、あのかんじは歌舞伎では出にくいかもしれない。
第一幕では純情そうな取的だった駒形茂兵衛が、二幕目では博徒になって登場する。博徒とはいえ、この芝居では正義の味方のような役回りの主役だからかっこいいわけだけれども、ヤクザ風のカッコのよさというのは、髪型や服の色合いや着こなしなど、時代を越え国境を越え共通したものがあるなとあらためて思った。博徒になった駒形茂兵衛は、カタギに迷惑をかけてはいけないというような美意識を持った男として描かれており、一方で、力士になるという道では挫折し、博徒になった姿をお蔦に見せるのは恥ずかしくもあると感じている。そのへんの機微を笠原章が見せてくれていた。
公演では、芝居の他に亀治郎の舞踏「保名(やすな)」と、劇団若獅子の「殺陣・田村」もあった。殺陣がリアル志向なのが、新国劇の特徴だろう。端的にかっこよくうつくしいので、観たことのない方はぜひ一度観て欲しい。
劇団若獅子の笠原章は丸亀市出身だそうだ。そして、「一本刀土俵入」が新国劇と歌舞伎の共演で舞台になるのは初めてのことだという。亀治郎のお蔦はいいですよ。
最後に舞台挨拶がありましたが、東日本大震災のことにも触れ、いろいろ考えたが、こういうときこそ芝居の灯を消してはならないとして、予定通り公演を行ったということです。会場では被災者支援のための募金も行われていました。
劇団若獅子「一本刀土俵入」/4月20日高松で公演 - 四国新聞社