戦火の馬

少年が育てた馬が戦地に駆り出される。
イギリスのデヴォン。父母と共に農地を耕すアルバートは、農耕馬には向かないと見られていた馬をジョーイと名付け調教し、毎日いっしょにはたらいていた。アルバートにとってジョーイは家族の一員。しかし、第一次世界大戦が始まり、ジョーイは軍馬として戦地に連れて行かれることになる。ジョーイの世話をするとアルバートに約束してくれた中尉が戦死し、ジョーイは戦場に取り残される。そしてやがて、アルバートも兵士としてヨーロッパに渡ることになった。……
馬を狂言回しとして描かれた第一次世界大戦下の物語。戦時下で人々は様々な姿を見せるが、物語の主軸となる馬はどこまでも無垢でうつくしい。戦争とは無関係に、馬の好きな人たちから愛を引き出してしまう存在でもある。そして、そんな馬のおかげでスピルバーグもあたたかい場面が撮れた、ということになるのかな。
原作は児童文学だそうで、少年や少女が主役級、彼らを取り巻く大人たちから世の中の有様が見えてくるという劇になっており、スピルバーグが人の温かみを描き出すには適したかたちだったのではないか。戦争映画だが今回は露骨な残酷絵は出さず、しかし戦争のむごさはちゃんと伝わってくる。
冒頭から映し出される朝焼けに照らされるイギリスの田園地帯の美しさ。その中で暮らす人々の抱える様々な事情、そして意地。舞台が戦地になると、ヨーロッパの風景もまた美しいのだが、やはり戦闘の眺めに圧倒される。スピルバーグは戦闘シーンを撮るのがほんとうにうまい。端的に活き活きしている。しかし実際の戦場は臭いがものすごそうだな。映画だと臭いがついてこないのでスペクタクルになるのね。
馬を育てた少年の父親と、戦地となったヨーロッパで一時ジョーイを保護する少女の祖父とは、過去に戦地で敵として向かい合った可能性もあるのだが、戦時を乗り越え家族を持った二人の男は、家族のために過去を越えて共闘することになったようにも見えた。戦争も起こるこの世で生きる人の強さも見せてくれる作品になっていた。
それにしても、戦争映画の中でのドイツ軍の絵的パワーは異常。ドイツ軍が出てくると、戦争映画の画面が締まる。すべての映画作家はドイツ兵の慰霊碑に献花すべきだ。