中村淳彦『職業としてのAV女優』幻冬舎新書263

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

題名通りの内容。現在のAV女優はどのように採用され、どのような仕事をこなし、受け取るギャラはどうなるのかを、数値を上げてわかりやすく説明してくれている。AV女優という職業に興味のある方は読んでおいた方がいいだろう。
レンタルメーカーが問屋だけを相手に商売をしていた業界に、90年代後半から客に直接売るセルメーカーが殴り込み、異業種からセルビデオに参入してくるものも増え、2005年ごろまで群雄割拠のカオス状態になり、客をつかみたいが故のサービス激化競争の中で、あのバッキー事件も起きてしまう。何度かのトラブルから学んだ業界はコンプライアンスを守るようになり、かつてAV業界に対してささやかれていたような危険性は薄まった。また、一般女性からAV女優になりたいと応募してくる人数も増え、もはや若い女性も相当ルックスがよくないと企画ものにすら出られない、なりたくてもなれない職業がAV女優となっている。
ビジネスとしては洗練されたAVだが、この本を読む限り、未来は明るくない。若い世代がAVはネットで無料で観るものだと思うようになってしまったせいで、ただでさえ不況にあるAV市場はさらに先細るのではないかと懸念されている。
若くて健康でOL勤めができるような女性たちが参入してきたことで、かつてならAV業界に居場所を見つけられたであろう一部の女性はそれもできなくなり、風俗業界の下層へと追いやられていく。この本でもひとつ例が紹介されているが、出会い系サイトを利用した援助交際を管理する業者がおり、売春には底がないと実感する。
かつてなら大勢が忌避したであろう売春は、金になるのなら何をしてもいいという風潮に伴って、だんだんとフツーの商売として容認されるようになってきた印象があるけれども、80年代の風営法改正のとき警察関係者は「規制緩和」といったものだが、規制緩和のおかげで弱い市民が食い物にされるということが性風俗でも大々的に起こっているのかもしれない。女の子は常に地に足をつけ、高望みをせず、健康でいればだいじょうぶ、なのかもしれないけれど、若い女の子に悩んだり迷ったりへたったりする余裕すら与えられない社会とはなんなのだろう(いや、ずーっとそうだったのはわかってるんだけどさ、いまもこの先もこのままなのかな?)と、わりととっちらかった感想がわいてきた読書体験でした。
バッキー事件の起きた背景が読めるので、あの事件に関心がある人にはお勧めです。

これを読んで思い出した本

ルポ十四歳―消える少女たち (講談社文庫)

ルポ十四歳―消える少女たち (講談社文庫)

売春論

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