恋の罪

DVDで鑑賞。
渋谷区円山町で女性が殺される事件が起きる。
刑事・吉田和子水野美紀)は渋谷区円山町で起きた殺人事件の捜査を担当することになった。被害者は身元不明の女性。円山町で売春をしていた疑いがあるとして、身元割り出しのために付近のデリヘルを調べ始める。
死体が発見されたのは廃墟と化したアパートだったが、そこを利用していた立ちんぼがいた。昼間は大学の助教授を務める美津子(冨樫真)だ。ふとしたことから美津子に接近した人気小説家の妻・いずみ(神楽坂恵)は、モデルにスカウトされたことがきっかけでAVに出るようになり、夫にはいえない秘密を抱える自分を持て余すようになっていた。美津子は、自分に引き寄せられたいずみに関心を示し、いずみも美津子に魅かれるようになる。やがて二人は渋谷のデリヘルに向かう。……
1997年に起きた東電OL殺人事件に触発されて作られた映画だという。エリートと売春婦という二つの顔を持たざるを得なくなった女性に焦点が当てられている。世間体を保ちながら影で要領よく遊ぶというタイプの女性ではなく、男性のようには分裂を許容されない社会の中で擬態し続けることができずに苦しむ女性を描き、結果として女優を観る映画になっていた。
水野美紀好演、冨樫真怪演、神楽坂恵熱演、という印象。実質的な主役は人妻いずみで、神楽坂恵は内面の変化を持て余す様子からそれを乗り越えて強くなる瞬間まで生々しく見せてくれる。大迫力だった冨樫真は露悪的な中に少女性を感じさせ、美津子といずみが共に文学少女の感性を持っているところで波長があうのがいかにもありそうと思わせられる。狂騒的な場面で盛り上がる二人にくらべると、劇中では地味にすら見える水野美紀だったが、じつはあの刑事がいちばんの儲け役だったのかも。刑事としてじいっと相手の話を聞いたり、私人の顔でその場を取り繕ったりするのが、やはりうまいんですよ。事件に関わる登場人物が全員サイコさんみたいになってしまっているので、一見目立たないようでふつうにうまいのが貴重に見えてくるんですね。
マーラーの音楽がいいかんじで流れていましたけれど、第四章にあたるデリヘルでの場面では、デリヘルの店長と男従業員の扮装、動き、しゃべり、すべてが舞台風で、そこにいたるまでも演劇調の空気が劇中で醸成されているんだけれども、あそこで一気に演劇的テンションが高まり、美津子といずみが劇的パワー全開になっていくんですが、やっていることがセックスだけなんで動きは単調になりがちで、観ていてちょっと疲れました。しかし、女優の迫力で押し切られて最後までもっていかれたかんじです。冨樫真はスペクタクルでした。
こういう劇映画で女優が見せるエロ演技は、やはり演技者としての技と魅力を感じさせますね。たぶんAVというのは劇映画よりはプロレスに近いし、だからAV女優の魅力は別枠で見ないといけないんだろうな。AVの良さってありますからね。
東電OL殺人事件ですが、別の観点からとらえた映画も出来て欲しいですね。エロ幻想をいっさい排除したドラマも見出せるんじゃないだろうか。