村上龍「オールド・テロリスト」第二十四回 文藝春秋2013年6月号

浅間山麓の取り壊し予定ビルでキニシスギオたちが対戦車ライフルの試射を行ったようだと、新聞記事を送ってくれた元官僚の山方。関口は山方に電話をかけさらにくわしい分析を聞かせてもらう。山方は、この事件の最大の謎は関口だ、関口さん、あなたが何故彼らに選ばれたのかだ、と、言うのだった。……
今回の読みどころは、カツラギさんが山方のことを信頼している様子で電話で話すのを傍らで聞きながら苛立つああこの気持ちはいったい状態になる関口の、ゼリーのように震えるオヤジ心の描写だろう。出会いが「スコーン?!」だったとはいえ、カツラギさんは物語中でずっと妙齢の美女であり続けてもいた。関口はまだ大丈夫だ。うん! そう、大丈夫!
そして、しばらく影が薄くなっていたマツノ君の劇中での出し入れのうまさも感じました。映画「チェンジリング」で主人公の息子の件で警察がばたばたしているとき、署内の情景描写として、ある殺人事件の報が入り警官を向かわせると答える場面が織り込まれているんですが、いま焦点があたっている出来事と同時進行で重大なことが起こっていたというのが後で効いてくるのですね。
そういう映画の描き方と似た、読者にマツノ君の存在を忘れさせないようにする、劇運びのうまさを感じました。
さて、来月は、関口の身に何かが起こるそうですよ! ああ待ちきれない!