佐藤次高『世界の歴史8 イスラーム世界の興隆』中央公論社

古代オリエント世界が終焉し、イスラームの時代が始まってから大航海時代の幕開けまでの流れが読めます。カラー図版も多く、見て楽しいのがこの『世界の歴史』の本。
著者によれば、イスラームは商人たちの宗教、都市の宗教であって、イスラームの世界では商人の社会的な地位は高く、商業も遊牧や農業より尊ばれる職業とみなされているとのこと。預言者ムハンマドも商人でしたし、このころすでに古代オリエント文明の地には都市が栄えており、その都市文明がイスラームの時代になってより高度に発展していった、そういう流れが見えてきます。
当時の都市文明の先端がイスラーム世界だったのかなあ、インドや中国というのがさらに東にはあるわけですが、少なくともヨーロッパに比べるとイスラーム世界の方がずっと都会的だったようですね。読んでいると、その当時のアラビア語は今の英語みたいな存在感があったんじゃないかなあと想像してしまいました。統治することになった土地でも、異教徒には余分に税金を払わせるけれども改宗を迫ったりせず、実際的な知恵をもって統治していたようで、そのへんもアメリカっぽいような。いわゆる奴隷と言われる身分の人たちの扱われ方といい、なぜか現在の世界と重なって見える光景が多い気がして、そこがおもしろかったです。
和辻哲郎ではありませんが、私もイスラームといわれるとすぐ砂漠を思い浮かべ、遊牧民を連想し、そのイメージからイスラームをとらえようとする傾向があったのですが、この本を読んでそういう思い込みからは抜け出せましたね。
ただし、政治的な争い、戦争、になると、地域によっては遊牧民の部族の存在が無視できない。これは今もそうなのかもしれませんね。
韓国の時代劇が日本のテレビで放映されて人気を博したりしてましたが、イスラーム圏の時代劇もあったらおもしろそうなんですけれどもね。どうなんでしょうか。ハリウッド製のコスプレ劇もありますが、中東製のドラマは日本では見られないのかな。
イスラーム世界を舞台にしたマンガもおもしろいものができそうです。