小川英雄/山本由美子『世界の歴史4 オリエント世界の発展』中央公論社

世界の歴史 (4) オリエント世界の発展

世界の歴史 (4) オリエント世界の発展

目次:

  1. 地中海アジアの夜明け
  2. 諸民族のめざめ
  3. イラン高原とその住民
  4. アケメネス朝ペルシアの成立と発展
  5. 地中海アジアの隷属
  6. ヘレニズム時代の人々
  7. パルティア王朝――第二イラン王朝
  8. ローマの東方進出
  9. サーサーン朝ペルシアの興亡
  10. 地中海アジアの終末

紀元前から7世紀半ばまで(サーサーン朝ペルシアが滅ぶまで)の、地中海アジアとペルシアが対立と交流を繰り返しつつ、オリエント世界が古代からその次の時代へと姿を変えていく過程が概観できます。
鏡を見ることで人は自己認識を持つようになり、氏族や部族による争いを経て王朝が出来、国の形が作られる。他民族との争いや交易を通じて人々の物事の見方にも変化が生じ、歴史意識も芽生え、古代的神々の世界から「高等宗教」とギリシア思想により人々が思索する世の中が立ち上がる。楔形文字や聖刻文字は徐々にすたれ、公用語はアルファベットで書かれるようになり、はじめての大学や修道院が組織される。
私たちが今生きている世界のひな型が出来上がる様子を見るような読書体験でした。
冒頭、シリア・パレスチナ(レヴァント)の地理的描写から始まるのですが、ダマスカスやハマなど、現在ニュースによく出てくる地名がこの本にも出てきて、しかも戦争や覇権争いの模様は現状とだぶって見えることも多く、困惑も覚えましたが同時に何か腑に落ちるような気もいたしました。
また、ユダヤ教キリスト教がローマ支配への抵抗運動思想として先鋭化していく様も胸打たれるものがありました。
ところで、ビザンツ皇帝がギリシアの学問は異教的であるとして、529年にアカデメイアを閉鎖してしまいます。居場所を失った学者たちは書物を抱えてサーサーン朝ペルシアに移住、クンデシャーブールに研究機関を設立します。ギリシアの学問が流入したことで、まずイスラーム世界で科学技術の基礎が研究され発展します。このあたりは塩尻和子『イスラームを学ぶ 伝統と変化の21世紀』(NHK出版)*1がわかりやすく解説してくれていますので、ぜひお読みください。