ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』文藝春秋 (訳:村井章子)

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

目次:
はじめに
序章 「決算報告書」をもつテロ組織

  1. 誰が「イスラム国」を始めたのか?
  2. 中東バトルロワイヤル
  3. イスラエル建国と何が違うのか?
  4. スーパーテロリストの捏造
  5. 建国というジハード
  6. もともとは近代化をめざす思想だった
  7. モンゴルに侵略された歴史を利用する
  8. 国家たらんとする意志

終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功


アルカイダから派生し、グローバル化、多極化、SNS、9.11以降の中東の混乱など、時代の変化に呼応しつつ、生まれ変わった武装集団・IS。
カリフ制国家建設を切り札とし、世界中から参加者を呼び込む「イスラム国」とは何なのか、何を目的としているのがについて考察した本。
米国がイラク攻撃を正当化するために捏造した“ザルカウィ神話”がひとり歩きを始め、ソーシャル・メディアでIS神話に化けてしまう。
タリバンと異なり近代性と実際的手腕を持つISは、支配地域で近代的統治を行っている。
オスマン帝国を解体し近代国家を建設しようという思想だったサラフィー主義の源流はISにも受け継がれており、したがってISの唱えるカリフ制国家建設にはスンニによる近代国家建設という夢がある。
そしてその野望実現のためには領土確保と経済的自立が必要なのだ。……
日本ではISの過激なイスラム回帰の側面に好奇の目が注がれがちですが、スンニ世界の近代革命というのが根本にあることがわかります。サウジアラビアの王族にとってはだから脅威なのですね。くわしくは本書をお読みください。
細かい点では、1990年代のイラクにおいて、経済制裁のせいで貧しくなってしまったスンニ派の中間層の間で過激なサラフィー主義が広がっていったというのが印象に残りました。
日本やアメリカに先んじて、イラクでは中間層の没落とその後が現出していたということなのかな。
グローバリゼーションの進行につれて先進国がサウジアラビア化していくように見えることもあり、じつは今アラブ世界が私たちの未来を生きているのかもしれない、ニュースを見ていると時々そんなことを思ってしまいます。

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