モンパルナスの灯

エコール・ド・パリ(パリ派)の画家として有名なアメデオ・モディリアーニの半生を描く。
モディリアーニジェラール・フィリップ)はモンパルナスで絵を描き続けていたが、なかなか陽の目を見るに至らず、肺病の苦しみもあって大量の飲酒で気をまぎらわす日々が続いていた。物堅い家庭で育ち、デザイナーを夢見て絵の勉強をしていたジャンヌ(アヌーク・エーメ)はモディリアーニと出会い、両親の反対を押し切る形で彼と結婚。画家として制作活動を続ける夫を支えることになったが、……。
冒頭でます「これは史実を基にした、物語である(史実そのものではない)」と断りが出て、その後、「今は世界中の美術館が欲しがるモディリアーニの絵だが、画家当人が生きている間は評価されることはなかった」云々というモディリアーニについての概説が述べられる。
画塾の先生や友人、そして最愛の妻など、彼の絵のすばらしさを信じて支えようとする人たちに囲まれながらも、失意のうちに一生を終えた若き画家。劇中では“モディ”の愛称で呼ばれている主人公モディリアーニを演じたジェラール・フィリップが、作品全体を一人で支えている、そんな映画だった。
淀川長治『ぼくにしか書けない独断流スター論』(近代映画社)*1 で、ジェラール・フィリップが来日したときの様子を淀川先生がお書きになっていたが、ジェラール・フィリップの立ち居振る舞いや劇場に集まった観客の様子も併せて、古き良き時代の光景が目に浮かぶようだった。上品ですっきりしていて芝居もうまい。ジェラール・フィリップは名優、36歳の若さで亡くなられたのが惜しまれます。
映画では、1910年代のモンマルトルの風俗と、当時の画家の様子が見られるのがおもしろさのひとつ。モディリアーニとかユトリロとか、日本でもよく名前を知られた画家で、中学や高校の美術の教科書にもカラー図版で紹介されている。この白黒映画では、ユトリロが描いていたような街並みが物語の舞台背景となっている。
リノ・ヴァンチュラ演じた画商は、モディリアーニの絵のすばらしさをいち早く認めていたものの、「でも彼は運がない。だから、いまは売れない。売れるのは死んでからだね」と言う。画商として投機の対象として値踏みしているんですね。友人が見つけてきたパリに遊びに来た大金持ちのアメリカ人は、モディリアーニの絵を気に入って買いたいと言い出したが、ひとつの絵を「これは新発売の化粧品の商標にちょうどいいね」と言ったりするので、モディリアーニは落胆し、そこで商談不成立となってしまったり、こういうところに時代を感じました。なんというか戦後であれば、画家の考え方もちょっとちがってきてて、それはそれ、これはこれ、で、やれたかもしれないなあって。
映画は、モディリアーニの死を見届けた画商が、夫の死をまだ知らされていない妻ジャンヌのもとに現れ、モディリアーニの絵を(おそらく安値で)ごそっと買い取っていく場面で終わります。ジャンヌは今まで絵が売れず画商にも相手にされていなかったので、画商が絵を買いに来てくれただけでうれしいんですね、だから、ほんとせつなく苦い幕切れ、画商が悪魔みたいに見えてきました。
史実によると、ジャンヌはその2日後、夫の後を追って飛び降り自殺。

*1:

ぼくにしか書けない独断流スター論

ぼくにしか書けない独断流スター論