高橋和夫『中東から世界が崩れる イランの復活、サウジアラビアの変貌』NHK出版新書 490

目次:
はじめに――中東というブラックホール

  1. 「国交断絶」の衝撃
  2. イスラム世界の基礎知識
  3. 悪の枢軸」・イランの変質
  4. 「国もどき」・サウジアラビアの焦り
  5. 国境線の溶ける風景
  6. テロと難民
  7. 新たな列強の時代へ

終章 中東と日本をつなぐもの

日本での中東理解は、どういうわけか宗教過多に陥りがちだ。宗教が難しい、だからわからなくても当然だ――。説明する方も、される方も、そうした宗教的な達観の境地にある。
本書の発想は、そうではない。たいていの事象は、宗教抜きでも理解できる。宗教的な「解説」は「わかったつもり」を生み出すだけで、理解にはつながらない。もちろん宗教の重要性を否定するわけではないが、宗教の話をしてわかったような幻想にとりつかれるのは、そろそろやめにしたい。本書では、宗教のみならず政治や経済にも着目し、問題の深層に光を当てたい。
(引用元:高橋和夫『中東から世界が崩れる』NHK出版新書 490 p12)

中東情勢の構図をわかりやすく解説した本。
先日紹介した本*1では、日本でアメリカの歴史について語られるとき無視されがちなキリスト教が果たした役割が語られていましたが、中東を語る際には、たしかにすぐイスラム教だから云々となって、そこで話が終わってしまうことが多いですよね。
欧米は近代化する日本にとってお手本のように見られていて、しかも欧米の近代がキリスト教の呪縛から抜け出したところから始まったからでしょうか。しかし、近年物議を醸しているフランスのライシテも、なぜああいう発想が出てきたかというと、その前段階にキリスト教と世俗社会の格闘があったからだし、自由と民主主義という思想も源流にはキリスト教思想がある。マルクス資本論』、私はちゃんと全部読んだわけではありませんが、ほかの経済学の本にくらべると特異な臭いがあるのは、マルクスの「神が死んだ」と言われる時代仕様の旧約聖書を書こう! という意気込みが詰まっているからではないのか。
まあ、日本人から見える西洋文化というのは、それはそれで日本文化の一部としてあっていいでしょう。でもそこで日本人だからそう見えてるのかもというのを忘れてはいけない。
中東になると西洋にくらべてもなじみが薄いせいで、すぐ、イスラム教だから、と、もうこれは外人が日本というとフジヤマゲイシャと決めつけるのと同じくらいのかんじで片づけられてしまいがち。日本人の目には外観が非常にエキゾチックに映るせいもあるのでしょう。
そういう現状を打破するためにも、本書が多くの人々に読まれればいいなと思います。
ニュースで中東を見る機会は増えていますよね。事件の背景を知り、何が起こっているのかを見るようにしていきたいものです。日本の近代史とも重なる面が多い気もしてきますよ。
余談になりますが、こういう地域のことを知ると、日本やアメリカで「もう国家単位でものを考える時代じゃないですよ♪」「国境を越えたつながりを〜」というのが、豊かな先進国で国民国家に守られて暮らしている住人の寝言に聞こえてきます。仮に国境が溶けた場合、中東だと部族のつながりなどがまた強勢となり、国民という形で得られていた保障を失う人が出てくるかもわかりません。中東地域だと、そうなっても適応できるノウハウがまだ活きていそうですが、仮に日本がそうなったら、大勢の日本人は困るだけなのではないでしょうか。

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ロレッタ・ナポリオーニ『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』文藝春秋 (訳:村井章子)http://d.hatena.ne.jp/nessko/20160116/p1