小さいおうち

GYAO! で視聴。
昭和11年に東京で女中奉公した女性が、当時の出来事を回顧する。
昭和11年、山形から東京に出て女中として働くことになったタキ(黒木華)は、赤い屋根のモダンでこじんまりしたお屋敷に入った。奥様である時子(松たか子)は若くタキと波長が合い、幼い息子もタキになつき、新聞では毎日のように中国での戦況が伝えられる中、小さな赤い屋根のおうちでは平穏な暮らしが続いていた。そんな中、主人の勤め先の若手社員である板倉(吉岡秀隆)が現れる。時子がこの青年に惹かれているのを、タキは心配しつつ見守る日々がはじまる。……
老いたタキが東京で女中奉公した時期のことを“自伝”としてノートにつづり、大学生の親類の子が誤字を直したりの手伝いをするため、書いた分だけ読み感想を漏らす、という趣向で、物語が進む。タキの話をそのまま聞いても大学生は自分のイメージするステロタイプな戦時中の日本とちがっているとなかなか信じなかったりするのが、よくある光景に見える。ほんとうに戦況が厳しくなってからはタキは田舎に帰されてしまった。タキが覚えている東京山の手の中流家庭での生活は、今よりモダンで洗練されているのかもしれない。戦後、大勢の一般人がああいう風に暮らしたいと願ったひな形にも見える。戦争は日常と地続きのままはじまり続行し終わるのである。
東京の山の手のモダンな暮らしの中で、タキが残した小さなミステリーが最後に残るのだが、この真相はわからない、観たものが想像するしかない。しかし、多感な若い女性の心の揺れはいつの時代も変わらない、ということなのだろう。
黒木華松たか子がいい。
劇そのものからはズレる感想だが、女中を使うというのはたいへんなことなのではないか。子供のころから使用人のいる家庭で育った人であれば対応の仕方が身に付いているだろうが、そうでない場合は他人を家に入れて家事をさせるのはしんどいことだろう。このはなしも、来てくれたのが黒木華だったからよかったようなものの、市原悦子が来ていたらどうなっていたのだろうかと余計な想像をしてしまった。