ドヌーヴ経由で「日没」を思い出した

カトリーヌ・ドヌーヴが出てくるニュースをネットで読んで、いまアメリカを中心に加熱中の #MeToo について、フランスの女性文化人たちがルモンド紙に公開書簡を発表したことを知る。

« Nous défendons une liberté d’importuner, indispensable à la liberté sexuelle »
En savoir plus sur http://www.lemonde.fr/idees/article/2018/01/09/nous-defendons-une-liberte-d-importuner-indispensable-a-la-liberte-sexuelle_5239134_3232.html#sE85MX2dlVI8dcvk.99
その翻訳が増田に出ていた。
ドヌーヴ「女性を口説く権利」 全訳  https://anond.hatelabo.jp/20180111072916
ネット上のニュースや口コミだけ見ていると、あたかもドヌーヴが問題発言をして炎上しているかのように錯覚する人も出ていそうだが、ドヌーヴはこの公開書簡に署名した百人の女性の中の一人。
上の翻訳には、こんな一節が出てくる。

すでに我々の何人かに男性の登場人物をあまり「セクシスト」でなく書くように編集者たちから 求められているし、セクシャリティと愛について語るときは慎ましくするように、「女性として振舞うことのトラウマに苦しんでいる」ことをもっとはっきりさせるように(!)と求められているのだ。

https://anond.hatelabo.jp/20180111072916

これ読んで「えー!」となったよ。あの、イスラム教徒から何度も苦情を入れられても無視し続けて、殴り込みまでされても、やっぱりアタシはシャルリよ! と息巻いていたおフランスで、そんなことが起きてるの? って。
この公開書簡を執筆したのは、ジャーナリストか作家か、とにかく文筆業に携わっている女性だろうと推測でき、そうであれば彼女は既に昨今の#MeTooに象徴される風潮によって文筆活動がやりづらくなってるんだなと想像できる。
そして、思い出すのが現在『世界』で連載中の、桐野夏生「日没」。
『世界』で桐野夏生「日没」新連載! http://d.hatena.ne.jp/nessko/20170311/p1
現在は隔月掲載になっているので、今月号には載ってなかったから来月号には載ります。
桐野夏生「日没」では、主人公の女性作家が総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会から召喚状を受け取ったので、指示に従って出向くと、僻地の療養所に連行されてしまい、貴女の作品は多くの女性読者から告発されています、だからここでまともになるまで療養していただきます、と言われ、監禁されてしまう、そういう話です。その療養所には他にも作家や映画関係者が囚われていて、矯正のための指導を受けています。

「その告発とやらは、手紙とかメールで来たんですか?」
私はやっとの思いで訪ねる。
「いいえ、ブンリンにはホームページがありましてね。文芸作品に関する読者のニーズを、広く公募しているのですよ。そこに届いたメールです」
役人は、密告を「ニーズ」と呼ぶらしい。ホームページに寄せられた密告を元に、「調査機関」とやらに委ねる仕組みになっているとは、まったく知らなかった。
(引用元:『世界』no.896 2017 June, p.262-263 桐野夏生「日没」第三回 )

桐野夏生の小説はエンタメ度が高いので、単行本にまとまってから一気読みした方がノリノリで読めるんじゃないかというのもありますが、現在連載中ですので、いまどきの世の流れを映し出しながら展開していくのではと楽しみです。
職場や学校で、立場の弱い女性がつらい目に遭わないで済むようになるなら、それにこしたことはない。
だから、#MeTooには、反対できないし、その流れで起こる様々な事象にも異論を申し立てづらい。
しかし、'MeToo' という語は、そのままファシズムのキャッチにも使えます。それを忘れてはいけない。
カトリーヌ・ドヌーヴもきらめいている世界でなければ、この世は闇です。
そう思ったよ。