川上泰徳『「イスラム国」はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想』集英社新書0862B

目次
はじめに

  1. 世界に拡散するテロと「イスラム国」の関係
  2. イスラム国」とグローバル・ジハード
  3. イスラム国」とアルカイダ
  4. イスラム国」とアラブの春
  5. イスラム国」を支える影の存在
  6. スンニ派の受難とテロの拡散
  7. イスラム国」と中東への脅威

おわりに

アラブの春からはじまって「イスラム国」出現とその脅威が国際的に注目の的となった2016年までの中東情勢と、それに影響される世界の様子を、ずっと中東を取材してきたジャーナリストが、とくに日本で誤解されがちなところを是正しつつ、解説してくれています。
1968年の日本の学生運動に重なる面のあったアラブの春、それがどのように推移し、いわばアラブの春の結果のひとつとして「イスラム国」が現出してしまう。そこには現在のSNSが発達し、中東現地からの市民による発信も大きく作用していること、また、日本などにくらべるとはるかに政府による情報統制がきつい中東では、マスメディア上の表層に流れる情報と現実の乖離が大きく、マスメディアを見ているだけでは実体がつかみづらいこと、それだけに欧米や日本など外から見るといつも唐突に事が起きるように見えてしまうことなど。サウジアラビアについて触れた章では、いま渦中の人になってしまっているMBSもキーパーソンとして登場。中東のニュースを読んでいく際に、本書はよき参考書となるでしょう。
中東、フェイクニュースの時代を先駆けて生きてきた地域のようにも見えるのですね。
こういう本を読むと、日本人ジャーナリストであれば、日本の一般人にはどういう面が見えにくいかがよく分かっているので、日本人向けにわかりやすく解説してくれるんだな、ということも実感できます。中東やアフリカなどで取材活動を続けているジャーナリストは、だいじにしなければいけないと思うのです。