『世界』2020 February no.929 師岡カリーマ・エルサムニー「すぐそこにある世界 第11回 魅惑のオクシデンタリズム(下)」

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 前回に続いて、千年前に、当時文化の先進地であった花の都バクダードから、使者としてロシア方面に赴いたアフマド・イブン・ファドゥラーンの旅行記が取り上げられています。
 寒いロシアと暑いイラクは、イメージとしてはずいぶんかけ離れた地域になりますが、地図を見ると意外と近い、千年前に陸路で旅行するのもうなずけます。旅行先でのものめずらしい見聞を書きとめたイブン・ファドゥラーンの旅行記は、研究によって史実をよく伝えているものと認められているそうで、ロシアでも博物館でイブン・ファドゥラーン関連の展示を見られるとか。十一か月の長旅の末たどり着いたロシアで、イブン・ファドゥラーンはバグダード出身の仕立て屋に出会ったりしているのですね。人の行き来は千年以上昔から想像以上に盛んだった模様。
 そしてバグダードからやってきた都会人イブン・ファドゥラーンの目に、北の“蛮族”バイキングがどのように映ったか。
 ハリウッド映画「13ウォーリアーズ」の主人公のモデルが、イブン・ファドゥラーンなのだそうで、映画の中のエピソードも、旅行記の中からとられているとのこと。
 著者はロシアに惹かれ、よく旅行するそうで、ロシアを訪れた際にはイブン・ファドゥラーンの旅行記を思い出しながら、千年前と変わらないものと、千年の間に変わったものを意識して見ているそうです。そこから、異文化が衝突し交流する中で続いていく人の世について考察しています。

 この連載はおもしろいので、ぜひ読んでみてください。