スーパースプレッダー

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『世界』2020年10月号(no.937)から連載が始まった、河合香織分水嶺 ドキュメント・コロナ対策専門家会議」では、日本でコロナ対策にあたっている専門家たちは当初から “スーパースプレッダー” の存在に気づき、そのことを念頭に置いて "クラスター対策" をしたことが分かります。

 少し長くなりますが、一部引用しておきます。去年(2020年)二月のことです。

 押谷はこの日、フィリピン保健省を訪れ、その後マニラにあるWHOの西太平洋地域事務局に向かった。そこで押谷が流行初期の最大の鍵だと思っていたことを、西太平洋地域事務局長である葛西健に切り出した。
「前向きに接触者調査をやっても、全然感染者が出てこないんです」
「前向きの接触者調査」とは、確認された感染者の濃厚接触者を探し出して徹底的に検査する対策で、SARSでもこの対策がとられた。押谷はその前の週に、研究のためシンガポールに行っていたが、現地の保健省担当者とコロナ対策について話した時にも同じ感触を得ていた。
 葛西は言った。
「実はうちで見ている結果も同じなんです」
 その時に、押谷はこのウィルスの重要な特徴、多くの人は誰にも感染させないが、例外的に一人が多数に感染させる例がある可能性に気づいた。そう考えなければ、流行が起きている理由の説明ができない。このことはのちに実証されるのだが、この時はまだエビデンスはなかった。なぜあの時点でわかったのかと尋ねると、押谷は「簡単な算数」の問題だと言う。
「基本再生産係数といって、一人の人が平均で何人に感染させているかの数字がありますが、それが一を超えないと流行が起きない。多くの人が誰にも感染させていないのに流行が大きく広がっているということは、一部に多くの人に感染させる人がいないと算数として成り立たない。ただそれだけのことです」
 ということは、多くの人に感染させる集団、クラスターを起こさないようにする、あるいは発生したクラスターを探して感染源をつぶしていくことが対策になる。クラスターとクラスターが連鎖しなければ、大きな流行にならないはずだ。これが「クラスター対策」と呼ばれることになる。そのためには後ろ向き、つまり感染源を見つけなければ、いくら前向きに濃厚接触者の調査をしてもクラスターは見つかるわけがないと押谷は考えた。

(引用元:『世界』no.937 (2020年10月号) p.32-33、 河合香織分水嶺 ドキュメント・コロナ対策専門家会議 第1回』) 

SARSエボラウィルスはほぼすべてが重症化し、発症前に他の人に感染させることがないものだったそうで、だから「前向きな調査」で封じ込められた。しかし、新型コロナウィルスは軽症者、無症状者が多く、発症前の人でも他人に感染させる特性がある。それを踏まえて、従来のやりかたではない、新型コロナウィルスに合った対策を考えての「クラスター対策」となったということです。くわしくは『世界』no.937を読んでみてください。

 

 それから一年たって、状況はまた変わってきているのでしょう。ウィルス自体が変異をくりかえしていますし、感染の広がり方も一年前とは変わってきているのかもしれない。日本の対策チームはずっと日本の状況変化を追いながら市民にも協力を呼び掛けていますし、まず感染拡大を押さえ込まなければ経済活動も活発にはなりません。

 思いつきで日本のコロナ対策に文句をいうより、対策チームがいっていることにしたがうのが一般人にとっては自分のためになるのではないでしょうか。

 『世界』は、いま2021年2月号が出ていて、『分水嶺』と『コロナ戦記』の連載は続いています。ツイッターで細切れの情報を追うよりこれまでの経緯やそれを踏まえての問題点の整理やこの先どうすればいいかなど、面として絵になって見えてきます。ぜひ読んでみてください。

 

『世界』2021年2月号(Vo.941)

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  • 発売日: 2021/01/08
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引用した部分が掲載されているのは2020年10月号です。

 

『世界』2020年10月号(Vo.937)

『世界』2020年10月号(Vo.937)

  • 発売日: 2020/09/08
  • メディア: 雑誌