東雅夫編『百物語怪談会』ちくま文庫

 

 泉鏡花が主宰しての文人たちによる百物語。明治時代の「ほんとにあった怖い話」が楽しめます。

 字が大きめでむずかしい漢字には読みがながふられている、中高年にやさしい作りの本。

 印象に残ったのは、鏑木清方夫人の「お山へ行く」。子供時代に故郷の村で体験したふしぎな出来事の思い出話なんですが、怪異譚的に語られていますけど、だれでも小さい頃の思い出には、今となってみると別に怪異とまではいかなくても何か現実ばなれしかかった光景として記憶されていることってあるんじゃないですかね、そのころの知覚が大人になってからのものとちがっているせいでしょうけれども。そういう、自分にもあったあの感覚を思い出させてくれるところがありました。

 泉鏡花の「一寸怪(ちょいとあやし)」は、スティーヴン・キング『キャリー』などにも通じる思春期の女子と怪異の親和性の高さと、現代では考えられないようなことがふつうに行われていた当時の現実の怖さが味わえます。

 「ほん怖」苦手な人には向かない本でしょうが、当時の東京の雰囲気、暮らしぶりがうかがえるので、明治時代をかいま見ることができますよ。江戸時代の名残が濃く、「ほん怖」ありがちパターンは現代とも共通項が多いですが、狐狸に化かされるおはなしがよく出てくるのは今とちがいますね。