エリック・ゼムールが日本のニュースにも出てた

集会で襲われたせいだろうけど、フランス大統領選、極右と見られるゼムールが目立つ半面、左派候補の影が極薄化してニュースにも出てこない。おフランスもそういうご時世なのか。

 エリック・ゼムールは、極右の評論家・ジャーナリストだそうで、今回フランス大統領選出馬を決意、YouTubeにその演説が日本語字幕付きで出ているのだが、興味のある人だけが見ればいい物件なのでリンクは貼りませんけれども(年齢制限があるのでログインが必要、「ゼムール ノーカット」でYouTube検索すると出てきます)、動画見てると『世界』2021年12月号の「「ニュース女子」事件とは何だったのか」を思い出しました。

 原稿を読み上げる形で心情を訴えていますが、著作家としての得手を活かして、あとは挟み込まれる動画がうまくバックアップしてるな、と。演出はうまいです。どう見ても人種差別的な排斥願望ですし、現実を巧みに加工して自分の主張を正当化するギミックにしている。でも、生活習慣が異なる移民が増えて日常ストレスを感じている人にはアピールしそう。反発も大きいだろうけど、当人それは織り込み済みで「でも、やるんだよ!」ノリですね。自分自身が大統領選に立候補するのはある意味りっぱ。

 Comme vous, Comme vous, と訴えかけるところから#MeToo派生形の一種になるのかもなあと思ったり、また「マイノリティによる独裁」というのは、一部のリベラル進歩派のすすめる政策に対する違和を表明してるのですよね(実際マイノリティの立場に置かれた人には被害妄想に聞こえるでしょう……)。ところで、いまのシリアはスンニーから見ると文字通り「マイノリティによる独裁」になってるんだろうな……などと、観ていろいろ感想が湧きました。

 フランス語は、やはりすばらしいですね。ほんとにほんとに、すばらしい! でも、日本人の演説あまり好きくない体質にもいいところはあるかもしれない、です。

 

 『世界』2021年12月号の書評欄では、前号からつづいてリチャード・J・エヴァンズ『エリック・ホブズボーム - 歴史の中の人生』岩波書店をとりあげた連載、三宅芳夫「越境する世界史家(下)」が載ってるんですが、そこから一部引用しておきます。

 ヒトラーの侵攻にフランスがあっけなく降伏したことは、当時の人々に大きなショックを与え、ホブズボームもそのときの衝撃を書き記しているそうです。しかし、評者によれば

 しかし、フランスの主たる敗因は、アナール派創始者であり、後にレジスタンスに参加、逮捕・銃殺される歴史家マルク・ブロックの言うように「精神的なもの」だった。

 フランスでは、大恐慌後三〇年代にシャルル・モーラス率いる「アクション・フランセーズ」、ラ・ロック大佐の「火の十字団」、J・ドリオの「フランス人民党」などの極右団体が伸長し、ドリュ・ラ・ロシェル、R・ブラジャック、そして若き日のM・ブランショなど極右作家もそれなりの読者を獲得していた。要するに、フランス社会は「反ファシズム」の合意 - とくにエリート内部で - がまったく形成されておらず、ナチスの侵略に対して断固として戦う気概と覚悟に欠けていたのである。

(引用元:『世界』2021年12月号 p242  三宅芳夫「越境する世界史家(下)」)

 

 第二次世界大戦後は、ファシズムへの拒否感は少なくとも先進国では強烈なまま現在に至っていますけれども、ネットを駆使した極右候補がどう動くか、フランス大統領選は要注目。