『世界』2023年2月号 小嶋華津子「習近平三期目 長期政権の内実」

 

 米中対立が顕在化していた6年前、尖閣諸島問題をめぐって悪化していた日中関係は、「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍総理のイニシアチブの下でむしろ回復基調にあった。安倍内閣は、習近平の打ち出した「一帯一路」構想と日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋構想」とは相矛盾するものではなく、連携できるとの見方を示し、四条件((1)インフラへのアクセスの開放性、(2)透明かつ公正な調達方式、(3)経済性、(4)返済可能な債務と財政の健全化)に基づく、両国の第三国協力に向けた枠組みづくりを主導した。2018年5月の李克強総理の日中韓首脳会議のための訪日を皮切りに、2018年10月には安倍総理が訪中し、2020年春には習近平の訪日も予定されていた。この時期、日中の間には明らかに、日米関係、米中関係から自律的な二国間関係が築かれつつあったと言える。
 それを可能にしたのは、おそらく、対中強硬論者の多い自民党内における安倍総理の強いリーダーシップであっただろう。しかし、安倍が2020年7月に突如として総理を辞任して以降は、日米同盟や伝統的安全保障一辺倒的の声ばかりが強まり、対中政策はストップしてしまった。2022年7月の参院選、さらには安倍元総理暗殺に端を発した統一教会問題などで日本では政権が混乱し、中国では党大会に向け政治的引き締めが徹底されたことにより、日中国交正常化50周年は低調なまま冬を迎えた。
 なぜ、内政のイベントを控えるごとに対中政策が停滞してしまうのか。そこには、国民の対中世論が大方否定的であることに加え、政治家を中心に、戦後から引き摺ってきた右対左、親米対反米、同盟対自立、反中対親中、安保対経済……といった単純な二項対立から抜け出せていない日本の政治や外交の未熟さがあるのではなかろうか。
 その結果、対立面を抱えながらも、中国との首脳間あるいは政府高官間の会談を継続してきたアメリカやEU諸国とあ対照的に、日本の対中政策はことあるごとにナイーブに反応し、ゼロサムに陥ってしまう。日本が安全と発展を実現し、国際社会におけるプレゼンスを強化するためには、属人的、情緒的、状況対応的な対中外交から脱却し、戦略的、多面的、自律的な外交を展開する必要がある。
 加えて、何よりも重要なのは、人材強国を目指す中国と渡り合えるだけの有能な人材を、官民あげて育成することである。理系・文系問わず国際的な場で活躍できる人材の層をこれまで以上に厚くしていかなければならない。
(引用元:『世界』2023年2月号 p.73 小嶋華津子「習近平三期目 長期政権の内実」)

メモとして。

『世界』2月号には、福田康夫インタビュー「習近平の中国とどう向き合うか」も載っています。読んでみてください。