カミュ『ペスト』新潮文庫

 

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/10/30
  • メディア: ペーパーバック
 


 アルジェの小都市オランでペストが発生、市は閉鎖される。外界と遮断された市民が病魔から解放されるまでの苦闘を描く。

 星新一ドストエフスキーブレンドしたような読み心地でした。

 閉鎖空間で災禍にみまわれ右往左往する人々の様を淡々と描くあたりは星新一風、書き手が登場人物に向けるまなざしの基調にあたたかみを感じさせるところはドストエフスキーに通ずるものがあります。

 不条理に直面した人々が見せる弱さや愚かさを断罪せず、それも人間性の一部として受け入れる姿勢、とにかくも人は生きていき、生きていく中で良きものも生み出すことを認め、全体としては人が生きることを肯定する物語だったと私は受け取りました。諦観に裏打ちされた世界観なのでしょうが、生者の世は常に死者とセットになっていますからね。

 郵便も止められてしまったオラン市民が外界と交信する手段は文字数が限られた電報だけになってしまうんですが、今ならツイッター使うんでしょうね。そうすると、この話よりは外界とも交流できそうな気もしますが、医師が遠方から放送されるラジオを受信して、自分たちのことが忘れられていないことに安堵しつつも、現場から遠く離れた場所にいる人にはやっぱりわかってもらえないんだなと絶望感を覚える場面もあるので、何とも言えないですね。

 後半部分で医師リウーと異邦人タルーが語り合う場面は、村上春樹羊をめぐる冒険』で主人公と鼠の対話を思い出さされました。

 鼠といえば、この物語はある朝ネズミの死骸が見つかるところから始まり、そしてふたたび町にネズミが戻ってくるところで終わります。子年に読むのにふさわしい小説かも。

 

 

『世界』2020 February no.929 師岡カリーマ・エルサムニー「すぐそこにある世界 第11回 魅惑のオクシデンタリズム(下)」

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 前回に続いて、千年前に、当時文化の先進地であった花の都バクダードから、使者としてロシア方面に赴いたアフマド・イブン・ファドゥラーンの旅行記が取り上げられています。
 寒いロシアと暑いイラクは、イメージとしてはずいぶんかけ離れた地域になりますが、地図を見ると意外と近い、千年前に陸路で旅行するのもうなずけます。旅行先でのものめずらしい見聞を書きとめたイブン・ファドゥラーンの旅行記は、研究によって史実をよく伝えているものと認められているそうで、ロシアでも博物館でイブン・ファドゥラーン関連の展示を見られるとか。十一か月の長旅の末たどり着いたロシアで、イブン・ファドゥラーンはバグダード出身の仕立て屋に出会ったりしているのですね。人の行き来は千年以上昔から想像以上に盛んだった模様。
 そしてバグダードからやってきた都会人イブン・ファドゥラーンの目に、北の“蛮族”バイキングがどのように映ったか。
 ハリウッド映画「13ウォーリアーズ」の主人公のモデルが、イブン・ファドゥラーンなのだそうで、映画の中のエピソードも、旅行記の中からとられているとのこと。
 著者はロシアに惹かれ、よく旅行するそうで、ロシアを訪れた際にはイブン・ファドゥラーンの旅行記を思い出しながら、千年前と変わらないものと、千年の間に変わったものを意識して見ているそうです。そこから、異文化が衝突し交流する中で続いていく人の世について考察しています。

 この連載はおもしろいので、ぜひ読んでみてください。

樋田毅『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』岩波書店

 

記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実

記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実

  • 作者:樋田 毅
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/02/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

目次

まえがき

第一部 凶行

 1 供述調書

 2 犯行の経過

第二部 取材の核心部分 1

 3 新右翼とその周辺

 4 日本社会の右翼

第三部 取材の核心部分 2

 5 ある新興宗教の影

 6 深まる謎

第四部 波紋

 7 捜査と取材

 8 現在、過去、そして未来

あとがき

本書で参照した文献についての補足

『新聞社襲撃 テロリズムと対峙した15年』(岩波書店)の続編にあたるもの。赤報隊の起こした事件は2003年3月にすべて公訴時効となっていますが、著者はその後も事件についての取材を続けており、その取材の過程で知ることになった「事実」をまとめたのが本書です。事件については本書をお読みください。

取材過程が読みどころのひとつになっていますね。こういうのを読むと、ネット上で検索してまとめサイトを作ったりしていい気になっているってすっごく恥ずかしいことだとわかりますよ。ネットでも、ニュース記事がソースとされることが多いですが、そういう記事を書くのがどれだけ労力を要するか。

また、まえがきにあるように、取材して得たものをどう記すかということにも神経を使われているのがわかります。

ネット上では、うわさや口コミがどのように伝わっていくか広がるか人にどう受け取られるのかが可視化されており、見る人によっては(子供のころ仲間外れにされいじめられたり生贄役をふられたことがあったりする人とか)それだけで神経に触ることもあるでしょう。でも、現実ってああなんだよねって、知っておくしかないし。

そういう中で、こういう本を読むと、取材して事実を本にまとめて伝えようとすることがどういうことかあらためて考えさせられますし、また、記した側の配慮を読み取ることが読む側にも必要なことが分かります。それだけに、読者の側が衰えることで消えるものもあるのではないか。新聞雑誌が読まれなくなって消えていくものってあるんじゃないかなあ。

赤報隊事件当時は奇異にひびいた「反日」という語が、現在はネット上でカジュアルに使われています。本書では、朝日に街宣にやってくる在特会の姿など、この30年の日本の世相の変化もとらえています。そのせいか、本書の中の老右翼の「予言」が沁みてくる。

犯罪実話マニアの諸兄、必読です。

 

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あけましておめでとうございます

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いい年になりますように。

 

さて、来週からEテレ「アラビーヤ・シャベリーヤ!」の再放送が始まります。

ロッコの旅行番組としても楽しめるので、ぜひ見てね!

 

NHK テレビ アラビーヤ・シャベリーヤ! 2019年10月~2020年3月 (語学シリーズ NHKテキスト)

NHK テレビ アラビーヤ・シャベリーヤ! 2019年10月~2020年3月 (語学シリーズ NHKテキスト)

  • 作者:金子 貴俊
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/09/18
  • メディア: ムック
 

 

ユープラザうたづ クリスマス

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今年のは、雪だるまがぱんぱん、元気そうでいいですね♪

 

今年は令和元年になりました。

はてな的にははてな村殺人事件の判決が出た年になるかな。

私的にはボヘミアンラプソディとゴジラ木下大サーカスの年でしたね。

それでは、みなさまもよいお年をお迎えください。