断崖

DVDで鑑賞。
夫の挙動不審が重なり妻が疑心暗鬼に陥る。
リーナ(ジョーン・フォンテーン)は、立派な教育を受けた女性で、父親は娘のことを誇りに思っていたが、母親は婚期が遅れていると心配していた。
リーナはふとしたことから知り合ったジョニー(ケーリー・グラント)に恋愛感情を持ち、父親の反対を押し切って彼と結婚してしまう。父親は、社交界では人気のあるジョニーの芳しくない噂を聞いていたのだ。
新婚当初は幸せいっぱいだったリーナだが、やがてジョニーが実は正業に就いていないこと、その場をとりつくろう嘘を言うのがうまいことに気づく。また、ジョニーが推理小説を耽読するようになったことも気になりはじめる。
日常の小さな出来事が積み重なり、リーナには最愛の夫が疑惑の人に見えるようになる。
ロマンスもののようにはじまり、徐々にサスペンスが盛り上がるおはなしだった。
主人公リーナの視点から見たジョニー像を映画を観ている側も共有できるように、うまく作られている。ジョニーを演じたケーリー・グラントがすごい。言動に軽い調子があるものの、軽薄には見えない。明るいようで、そうでもない。目が妙に座っていて常に計算高さを失うことのない、そんな人物に見えるのだ。愛する夫への不信感に悩まされるリーナを、ジョーン・フォンテーンが的確に演じている。
伏線がうまく張られており、おはなしの要点を絵できちっと見せてくれるヒッチコックの技はさすが。この映画自体が英国製のよくできたミステリーの味わいを持つが、おはなしの中に重要人物として女流ミステリー作家が登場し、英国での推理小説の楽しまれ方が覗けるような場面も含まれた作品になっている。
疑心暗鬼が膨れ上がった状態の妻の下に、夫がミルクを持っていく。夜の暗さの中、ミルクの入ったグラスだけが真っ白に浮き上がって、妻の下へと運ばれてくる。妻の不安が鮮やかに映像として迫ってくる。こういう心理描写もあるんだ。そんなおどろきがヒッチコックの映画にはある。