ハート・ロッカー

DVDで鑑賞。
イラクに駐留する米軍の爆発物処理班の兵士を描く。
冒頭、目的地に向かう米軍爆発物処理班。兵士の主観映像、到着して車から降り立つ兵士たちの姿、周囲の人へ呼びかけるアラビア語の声、背景にコーランの詠唱のような響きが音楽として流れる。
爆発物を見つけ、遠隔操作で動くロボットを使って中身をたしかめ、処理を始める。緊張感漂う現場、きびきびと作業を進める兵士、合い間で入る軽口。順調に作業が終わるかと見えた直後、思わぬ事故。兵士が一人、死亡する。
死亡した兵士の後釜として派遣されたジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)は、爆発物処理に関して凄腕の持ち主だった。マイペースで仕事をこなす傾向があったが、同じ班の兵士と共に任務をこなすうちに、他の兵士ともなじんでいく。
過去の作業で得た部品を大切に保管していたり、爆発物処理に対してマニアックな執着を持っている人物として主人公は描かれている。
有能なジェームズ二等軍曹であったが、激務の続くイラクでは、挫折感を覚える出来事にも遭遇する。危険な任務に神経をすり減らす同僚がもらす言葉が自分の心に響くこともある。しかし、彼は、爆発物処理を続けることを選ぶ。
爆発物処理、原野での敵との撃ち合い、都市の建物内に踏み込む等、緊張感溢れる場面が続く。映画におけるアクションシーンが凝縮されたような作品になっている。緩急の間がよく見られる映像のつなぎ方、ひとつひとつの絵の強さ、役者のうまさ。
おはなしは、米軍の兵士を描くものになっているので、イラク戦争を描いた映画として観た場合はいろいろな不満が出てくることが想像できる。実際、出てきているようだし。
私は、爆発物処理に当たる米軍兵士を描いたおはなしだと思って観てしまいました。背景としてイラク市民の日常が描かれており、そこにはあきらかに米軍を他者として見ている人々の表情と、軍隊がそこにいようが変わらず続く市民の日常が映されています。この映画に関してはそれで十分だと思いました。
主人公がある事件をきっかけに、イラク人の家へ強引に入り込む場面があります。銃を構える主人公に対し、家の中にいた大学教授だという英語の喋れる男性が事情を聞こうと英語で話しかけてきます。ところが、そこへお茶か何か持って入ってきたおばさん、英語なんか全然わからないらしく、へんな外人の若いのが闖入してるのを見つけて怒りだし、わめきながら主人公を外へたたき出してしまうんですね。
日常の市民生活は、あんなもんだろうな。イラクアメリカも日本も。
ジェームズ二等軍曹、いったん任務期間が終わったので、妻と子供のいる家に帰りますが、家庭生活のリズムにはなじめず、結局また爆発物処理の現場へと向かうことになります。ある意味自分には何かが欠けているのかもしれない、でも、そんな自分だからこそできることがあるんだ。
そして、ジェームズ二等軍曹の役割は、たしかに人々に必要とされているのですね。
才能に恵まれた特異な男の話だったということなのかな。
この作品で、キャスリン・ビグロー監督は女性で初めてオスカーを受賞したとのことですが、アカデミー賞が女性監督を認めた作品が、戦地を舞台にした男の物語だった、というのは記憶に留めておいていいのかもしれません。ハリウッドに限らず、映画はオヤジ文化でしょう。例外はまだ少数で、女性監督としてオヤジ文化にキョーレツなカウンターをかませそうなのは、キャスリン・ビグローではなくてソフィア・コッポラなんじゃないかなあと、私は思ってるんですけどね。