殺人調書Q&A

DVDで鑑賞。
刑事が麻薬の売人を射殺した事件を捜査する検事補が警察の闇に突き当たる。
ニューヨークのベテラン刑事、ブレナン(ニック・ノルティ)が、ある夜、麻薬の売人トニーを射殺する。検察殺人課課長から呼び出された元警官の新人検事補・ライリー(ティモシー・ハットン)は、この事件を捜査するよう命じられ、古巣でもあるニューヨーク市警に赴く。
ブレナンは正当防衛を主張。しかし、証人からの話を聞いたりして調べていくうち、ライリーはこの事件には裏があると確信する。捜査を続けるライリーにブレナンが脅しをかけてくるようになり、証人になった者たちの身にも危険が迫る。
冒頭、きっちりブレナンによる殺人が描かれる。そしてライリーが呼び出され、課長から話を聞くのだが、そのとき課長は「私は、法を破る者ならどんな肌の色だろうと、ゲイだろうと女装者だろうと、容赦しない」と言う。この映画では、マイノリティに属する民族やゲイが登場し、差別的発言が登場人物の間でボクシングの打ち合いのように交わされる。ではそれがこの作品のテーマなのかというと、そうでもない。物語の舞台となるニューヨーク風のスパイスを効かせてみたといったところだろうか。正直、ちょっとスパイス効きすぎだと私は思った。
政治絡みの男たちの権力闘争の中で弱者が犠牲になり事実が闇に葬られる現実の冷酷な一面を描き出した作品だが、観ていて不満が残った。
ライリーが捜査のため市警にやってきたとき、ニック・ノルティ扮するブレナンが、自分が犯人を逮捕したときの模様をおもしろおかしく同僚に語って聞かせている。同僚たちに囲まれて観られている中、自分と犯人の役に合わせて声音や立ち位置を変え、身振り手振りも大きく表情豊かに現場を再現して見せるノルティは、いかにも役者だ。舞台の劇を観ているようだ。しかし、ちょっとやりすぎではないだろうか。ブレナン刑事がいささか性格異常者のような役になっているとしても、そぐわなくないか。
どうもこの、ちょっとやりすぎではないか、というかんじが全編につきまとい、気持ちよくおはなしの世界に入っていけなかった。
ライリーが証人たちから話を聞く場面でも演劇風になり、役者はうまいので迫力は出るのだが、犯罪捜査のドラマとしては不自然な気もしてきてしまう。いや、犯罪捜査のドラマという形の芝居をあなたは観てるわけだから芝居を楽しめばいいじゃないですか、と言われるのかもしれないが、これでは芝居で見せてくれているおはなしが妙に見えてきてしまう。映画全体に緩急の間が感じられず、アッパーな場面が淡々と連打されるせいで、次々と事件の裏の絡みが見えてくる物語なのにも関わらず単調な印象になるのも問題だろう。
それと、この映画では、オカマがボコボコにやられている。オカマばかりがボコボコにやられすぎている。相手が自分より弱いとみると嵩にかかって威圧するヤクザや悪徳警官が主要登場人物なのでそうなるのも当然なのかもしれないが、シドニー・ルメット監督作品では、しばしばオカマが目立つイヤな役を担っていたことが思い出される。「狼たちの午後」ではクリス・サランドンの好演が光ったがいい役ではなかったし、「その土曜日、7時58分」でも麻薬の売人として登場したオカマはイヤな印象を残すだけで劇中であっさり殺された。これはシドニー・ルメットのクセなのだろうか。
狼たちの午後」や「その土曜日、7時58分」は作品自体を楽しめたのであまり気にならなかったのだが、今回は本筋からはずれたところが粗として見えてきて気になったな。料理の仕方次第でもっとおもしろいものになっただろうに、残念な作品だった。