村上龍「オールド・テロリスト」第八回 文藝春秋2012年1月号

関口のいる会社までやって来たカツラギは、池上商店街でのテロ犯・タキザワを知っているという。関口はタキザワについて知りたいのでカツラギにつきあい、やがてカツラギは自分がタキザワ君と知り合った心療内科にいっしょに行こうと言い出した。
「キニシスギオさんがいます。今から予約しますね」
渋谷の雑居ビルにあるアキヅキ・メンタルクリニックにカツラギと共に入った関口。関口はそこで医師と糸電話で会話することになる。おどろいたことに医師は「セキグチ君」と呼びかけてきた。まだ名乗ってもいないのに既に名前を知られている。この医師はあの老人たちの仲間なのだろうか。
「まず、この音楽を聞いてみてください」
医師のことばに続き、竹の筒からローリング・ストーンズの「サティスファクション」が流れてきたが、……。
いよいよキニシスギオが関口の前に姿を現しそうだ。老人はあらゆる面で古臭いとまだ老人になっていない者は思いがちだが、この物語の舞台となる数年後の日本で70代の人たちは、リアルタイムでストーンズを聴いていた世代なのだった。老人もいろいろ、たとえば若き日中国で活動した特殊工作員は、老いても当時のノウハウを備えている。おとなしい若い衆よりその気になれば実戦的に強かったりしても不思議はない。
この小説だが、関口の語りによって描写される情景がよいね。昭和の臭いが残る喫茶店、その中では浮き上がる美人に一瞬見えてしまうカツラギさん、一歩進むごとに十歳ずつ老けていくぱっと見が若々しい医院の受付、など。
田舎には三十年前と雰囲気が変わらない喫茶店はめずらしくないですし、私も新しいおしゃれなお店よりはそういう喫茶店のほうが和みます。そんな場所でコーヒーでも飲みつつゆっくり「オールド・テロリスト」を読むといいかんじかも。ただし、読んでる途中で笑い出しそうになりそうで、笑っちゃだめだと思う場所で笑い出しそうになると止まらなくなりそうで、それがちょっとこわいです。