ジャック・リーチャー NEVER GO BACK

元米軍捜査官ジャック・リーチャーが、軍内部の不審な事件を追う。
元米軍秘密捜査官ジャック・リーチャー(トム・クルーズ)は、テキサスの田舎町でごたごたに巻き込まれ保安官に連行されそうになる。そのときかつての同僚ターナー少佐に助けられたが、そのすぐあとでターナー少佐がスパイ容疑で逮捕されたと聞き、軍内部に不可解な動きがあることを察知。ターナー少佐を救い出したリーチャーは、共に事件の謎を解こうと捜査を始めるのだが、……。
トム・クルーズ主演「アウトロー」の続編となります。トム・クルーズ版渡り鳥シリーズと呼びたいような、痛快な仕上がりの娯楽活劇でした。トム・クルーズは姿良し芝居良しアクションも決まるので、安心して観ていられます。
そしてこの映画、話がたいへんよくできている。脚本がいいです。基本は犯罪捜査ものに日活アクションや東映網走番外地」シリーズの楽しさを加えた一品ですが、現在のアメリカ社会の諸相を物語に織り込むのがうまい。現実社会を反映させて物語のリアリティを補強しつつ物語の中では夢も描かれている。エログロサイコにならずに正道を行こうとするストイックさがこの娯楽映画を気品あるものにしています。アクションもCG濫用に走らず、古き良きアクション映画をリメイクして見せてくれました。
いまどきはかえってこういう映画を作るのがたいへんなのかもしれませんね。トム・クルーズが大スターだから可能になる企画なのかも。エドワード・ズウィックは「ラスト サムライ」を撮った監督ですが、うまいです、すばらしい。
悪の親玉がラムズフェルドを思い出させる役作りなのに苦笑しました。それと、男性の手の大きさをいろいろいうのはアメリカでありがちなのか? たしか予備選でルビオに「手が小さいよね」といじわるを言われたトランプがそれがどうしたと反撃する際に言ったセリフが大顰蹙買っていましたが……。というわけで、いろいろ楽しめました。おもしろかったです。
やっぱ、トム・クルーズは最高ですよ! ぜひ劇場でご覧ください!

雑感

米大統領選でのトランプ勝利を受けて、ネット上では絶望したと悲鳴をあげている日本人が何件も見られました。それを見て、私はアメリカに対してこういう気持ちは持ってないんだな、と思った。アメリカの映画や音楽や小説が好きで、だから英語より米語が好きで、日本は歴史的にもアメリカとの関りが近代以降非常に重いし、敗戦後も占領したのがアメリカだったのは日本にとっては運がよかったのかもしれないなと本を読んで考える程度にはアメリカびいき、アメリカ好きなわけですが、現実の他国としての米国は、誰が大統領になろうと日本がつきあっていかなければならない強者くらいにしか見えていない。
戦後の日本での通俗的アメリカへの夢というのは、アメリカ側の宣伝が大きく作用しているのでしょうが、自由と民主主義のよさを日本でも! という日本人の思いは本物だっただろうし、不満多い現状は必ず改善できる、と考えていろいろ努力を重ねた人たちにとっては、そのとき脳裏に描くわかりやすい理想像に、アメリカのあきらかに日本よりは良く見える光景が浮かんでいたのだろう。たとえそれがハリウッド映画の中の一場面であっても、日本では映画の中にすらそれが出てこなかったのであれば。
そういう夢のアメリカ像にはソ連という影がついていた。日本には共産主義に夢を見た人もけっこういた時期があった筈なのだが、自由なアメリカにくらべると暗い管理社会というイメージが一般人レベルにも広がっていったし、そのイメージと重なる現実がソ連にあったのは確かだ。
そして20世紀も終わりに差し掛かったころ、ソ連は崩壊する。その後、夢のアメリカは影を失ったまま、亡霊化して浮遊するようになった。ソ連にくらべて住みやすいですよと張り合う必要がなくなったのが、労働者が顧みられなくなった一因だったのでは。
トランプ大統領登場は、天使になれずに亡霊と化した夢のアメリカが、再び地上に足をつけて生身のアメリカとして生きようとする、そういう時代の始まりではないのかな。少なくともトランプに投票した人はそう願っているのではないだろうか。
夢であることを押しつけられてきたアメリカが、外見ぱっと見の勝手な思い込みで決めつけないでよ、ほんとうの私はこんな風に思ってたのよ、裏ではこんなに苦労をしてたのよ! と、まるで男たちに幻想を押し付けられるのを拒絶する女のようにレリゴーした、その結果がトランプ勝利なのではないだろうか。
トランプ大統領誕生で、悲嘆にくれるフェミのツイートをいくつか見ましたが、これはフェミ的な思考や感覚がKKKにまで浸透した結果なのかもしれないんですよ。
というわけで、ああひょっとしたら! いまこそ読み返されなければならないのは小谷野敦*1の『もてない男*2なのかもしれません!