自衛隊の「膨張主義」 主役は制服組

Yahoo!ニュース - 守屋前次官の収賄疑惑
守屋武昌前防衛事務次官(63)とその妻が逮捕され、防衛省にも家宅捜索が入った。防衛利権の闇にどこまでメスが入れられるのか、捜査の進展に期待したい。
このところ“渦中の省”になってしまった防衛省だが、岩波『世界』2007年7、8、11月号に、川邊克朗が近年目立ってきた自衛隊の膨張の実態を報告する記事を寄せている。そこでの主役は制服組である。
川邊克朗「瀕死のシビリアン・コントロール(1)」(『世界』2007年7月号) は、防衛省に年明けから相次いだ情報漏洩事件などのスキャンダルの対応に院内を駆けずり回る内局組を横目に、涼しげな顔で「オレたちはスキャンダルの被害者だ」と広言してはばからない制服組の様子の描写から始まる。
元々「政治優先による軍事統制」という意味を持つシビリアン・コントロールだが、日本では内局組(背広組)が制服組をコントロールするという風に解釈されてきた。そして、その象徴が内局が制服組の人事を決めるということだったのだが、近年人事についても制服組が直接首相官邸に報告したりすることが起きるようになっているという。内局組の地位が低下しているのだ。
内局組と制服組の力関係が逆転した一瞬として、北朝鮮が核実験をした直後に外務省と連携して海上封鎖をしようとした守屋前次官に対して、海自が現在の周辺事態法を根拠に「海上封鎖に直接参加するわけにはいかない」と異を唱え、守屋が「それは俺に対する当てつけか」と怒鳴る場面が出てくる。守屋の人事に不満を抱いていた海自による反撃ともとれる出来事だったからだ。
このときの海自の推薦を無視して守屋が行った人事は、治安当局者も首を傾げるようなものだった。以前より「国家革新を唱える右翼的な人物」と見なされてきた者を統幕長に据えたからだ。しかも、その人事に防衛省内局や政府国会野党からも疑問の声が上がらなかったことに治安当局は二重の意味で驚いたという。
内局組が出世のために制服組を利用する、政治家たちが軍に対する警戒心を失っていることなどがシビリアン・コントロールの危機を高めている。くわしくは『世界』7月号を読んでもらいたい。
『世界』8月号では、自衛隊の膨張は同時に米軍との一体化が加速していくことでもあって、このまま進行すれば「米国の米国による米国のための『自衛隊』」が現れるだけなのではないかという危惧が語られている。
『世界』11月号では、佐藤正久議員の「駆けつけ警護」発言や、小池vs守屋の人事バトルなど最近の出来事を取り上げている。そして「膨張主義」と同時に見逃せない自衛隊の「ブラックボックス化」も指摘している。
自衛隊はスキャンダルが起きるたびに組織の改組・解体を繰り返し、結果としてブラックボックス化が進んでいるというのだ。
組織の改組・解体の例。

  • 防衛施設庁技術審議官らが逮捕された談合事件を受けて防衛施設庁を解体し、本省に統合、地方協力局と看板を掛け替える。
  • 情報漏洩事件再発防止のため、陸・海・空それぞれに設置されていた自衛隊の司法組織である警務隊を統合して、防衛監察本部を新設。監察監(準次官級)には桜井正史・前名古屋高検検事長招請された。
  • 情報保全隊による市民監視問題を機に、陸・海・空それぞれにあった情報保全隊を09年3月をメドに統合し、情報保全本部に変える。

マスメディアがこういった自衛隊の動きをまともに報道していないことも問題だとしている。
たとえば警務隊を統合した防衛監察本部について、一般読者からは「憲兵隊の再来ではないか」(朝日新聞8月25日付朝刊)のような反応があるのに、それにくらべるとメディアの感度が鈍いというのだ。
この自衛隊というか「軍」の動きについては、戦時中の記憶のある年配の方々のほうが若い世代より敏感なのではないだろうか。具体的に想像できるというか、どのような影響が市民に及ぶかを指摘できる方々がおられるのではないか。
とにかく、もっと防衛省自衛隊に光を当てて、その実像を伝えてもらいたいと思う。