エミリー・ローズ

DVDで鑑賞。
悪魔祓いの儀式を受けた少女が死亡し、神父が過失致死罪に問われる。
冒頭、荒涼とした風景の中、ローズ家に検視官が訪ねてくる。この絵がすばらしい。白っぽいペンキが剥げかかった一軒家、隣接する大きな納屋も同様に退色しかかった、雨や風にさらされ続けた疲れとしぶとさを感じさせる光景。家の中の人たちの表情は失せており、検視官は死亡したエミリー・ローズは自然死とは言い難いと告げる。そして神父が責任を問われた。
ここで、家の中のテーブルに置かれた皿に盛られた果物が一瞬大きく映し出されるが、まるで静物画を見せられたような気がした。映画全体、この絵の美しさが持続する。ダリオ・アルジェントほど臆面無く美々しさに走ることなく抑制を保っているのは、この映画が法廷劇だからかもしれない。
野心満々の女性弁護士が神父の弁護を引き受ける。一方、検察側は被告が神父だということに配慮し、熱心なキリスト教徒として認められた人物を起用する。裁判では不可知論者を自認する女性弁護士が、神父の無罪を勝ち取るため悪魔祓いの必要性を証明しようとし、熱心な信者であると自称する検事が、あれは悪魔憑きなどではなく、病院で治療を続けていれば治った筈の病気でしかなかったのだと証明しようとすることになる。
幻覚に悩まされ、身体を不自然に反り返らしたり、全身を硬直させたりするエミリー・ローズの様子は、たしかにある種の精神病になった人が見せる症状を連想させる。
女性弁護士もこの裁判を引き受けてから、奇妙な体験をすることになる。そして彼女も少しずつ変わっていく。ただし、一気に神秘の淵に呑み込まれたりすることはなく、日常の足場を見失わないよう理性を保ちつつ、物事の感じ取り方や受け止め方の幅を広げていく、という形で。
このあたり、最近読んだ笙野頼子『金毘羅』のことを思い出させられたけど、『金毘羅』はもっとその過程を克明にことばで描き切っていた。
この映画は、キリスト教の信仰をはっきりと肯定して終わったように私には見えた。アメリカには熱心なキリスト教徒が多いそうなので、それでこうまとめるのかな、そんな風に思った。
エクソシストの話でもあるせいか、このDVDもホラーのコーナーに置かれていたけど、これは法廷劇でしょうね。すごーいSFXなんかを期待して観ると肩透かしをくらうかもしれません。でも、SFXしか売り物がない映画よりずっとおもしろいですよ。
役者は皆上手い。特に、弁護士を演じたローラ・リニーエミリー・ローズに扮したジェニファー・カーペンターがすばらしい。