処女の生血

DVDで鑑賞。
処女の生血を吸わないと生き延びられない吸血鬼の話。
ルーマニアのドラキュラ伯爵は、処女の生血を吸わないと数週間で死ぬと執事に告げられる。付近ではもう処女狩りは無理、そこでカトリックの国イタリアの田舎へ行くことにする。ドラキュラと執事が着いたイタリアの田舎町には、4人姉妹を持つディ・フィオリ侯爵がいた。二人は侯爵に結婚相手を探しに来たのでぜひとも4人姉妹に会わせて欲しいと頼み込む。そして、処女の生血を吸おうとするのだが。
冒頭、ドラキュラ伯爵に扮したウド・キアーが化粧をしているところが延々と続く。眉を描き、紅を塗り、頭を黒く染めていく、その様子を見ていると、『ベニスに死す』のダーク・ボガードのことを思い出してしまう。最初にどーんとアンディ・ウォーホルの名前、監修という形でこの映画に関わっているとのことだが、彼の名前は売りになったんだろうね。そして、ウォーホルの名前から、ああ、あのかんじなのかあ、と想像も広がったりもするだろうが、たぶんそれを裏切らない風味はついてるのでは。
色美しく撮られたイタリアの景色、時代設定はロシア革命の直後。そのため、登場する貴族の娘たちの髪型や衣装、化粧した顔が、サイレント映画に出てくる美人女優を思い出させる。ドラキュラ映画のパロディの趣が濃いが、サイレント映画への思慕も感じさせる作品になっている。
イタリア貴族の役でヴィットリオ・デ・シーカが、ドラキュラの執事に居酒屋で物真似ゲームを仕掛ける村人役でロマン・ポランスキーが出てるのもうれしい。だけど、この映画、ドラキュラは命がけで処女を探しており、その手伝いをしている執事も処女獲得に必死、そのため、まだ結婚相手にはできない年齢の少女を見ると「処女だないいなあ」としげしげと見つめるのよ。そういう映画にロマン・ポランスキーって、ひょっとしてやばいキャスティングなのか。
もっとも、この映画、ドラキュラは自分の生命維持のためだけに処女を探しまくる、こんな自分の存在は女の子から見れば害獣でしかないよな、だってやってることこんなんだし、そんな自覚だけはドラキュラ&執事共にある世界になってる。おんたこ((C)笙野頼子)とは、そこがちがうわな。
体調不良で世の風潮を憂い、不機嫌で弱々しいのにプライドだけは高そうな表情、エネルギー切れで断末魔ぎりぎりになり痩せた身体をひくひく痙攣させたり、非処女の血をうっかり吸ってしまって悶絶、食あたり状態で血を吐きまくる姿、手足を斬りおとされても「オレが殺せるか!」と人間に吸血鬼の意地を見せつけるところなど、この映画のウド・キアーの怪演ぶり、その風貌と役柄がぴったりマッチしていることを考えれば、一世一代の名演技といってもいいくらいではないだろうか。
というわけで、私にとっては『処女の生血』はウド・キアーの映画なんだけど、冒頭で、役者として一番最初に名前が出てくるのはお尻自慢のジョー・ダレッサンドロなのよねえ。『悪魔のはらわた』でもそうだったし、監督の好みのせいなんだろう。ジョー・ダレッサンドロねえ。たしかにお尻はきれいなんだが、私は何回見てもこの人の顔が覚えられない。