ティモシー・マクヴェイ

日本でも大きく報道されたノルウェーでのテロ。逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者は犯行を認めたとのこと。彼はネット上で多文化主義への反発を語り、自らを愛国者であるとしていた。
動機などくわしいことはまだわからないが、これまで出てきた記事*1を読んでいて思い出されるのが、オクラホマ・シティー連邦ビル爆破テロの犯人、ティモシー・マクヴェイだ。
The Oklahoma City Bombing
ロバート・J・リフトン『終末と救済の幻想』(岩波書店)は、サリンテロを起こしたオウム真理教について信者に取材して調べて書かれた本だが、オウムの世界観と集団としての特徴を分析し、米国のカルトにも通じる妄想の型があるとしている。
リフトンは、米国の例として、人民寺院ヘブンズ・ゲイトと並べて、このティモシー・マクヴェイを取り上げていた。
『終末と救済の幻想』によると、マクヴェイは、十代の頃から極右のイデオロギーに引かれており、自らサバイバリストだと名乗っていた。また、銃への執着が深く、射撃場に入り浸っていたという。陸軍に入隊し湾岸戦争に派遣されるが、戦地では有能な兵士だった。しかし、極度の人種差別主義者としても知られ、湾岸戦争の後、特殊部隊に入ろうと試験を受けた際、心理テストの結果、落とされてしまった。これはマクヴェイには大きな挫折体験となり、その後妄想症的傾向が加速する一因となったと見られている。
マクヴェイは新聞にアメリカの衰退を嘆き、現在のシステムを改革すべきだと投書したり、民兵組織の会合に出席したりもしたが、既存の極右組織に属することはなかった。彼は一人で極右の古典といわれるネオ・ナチ小説『ターナー日記(The Turner Diaries)』を読み耽り、妄想を膨らましていった。小説の主人公・ターナーは「革命」のために様々な武器を用いて闘争をするのだが、この小説中に出てくる肥料爆弾の作り方をマクヴェイは参考にした可能性があるという。
リフトンの説明を読む限りは、『ターナー日記』は白人様仕様の産経ロマンのアクション版、『ムー』的妄想とも親和性が高い、白色人種優性伝説を神秘的に歌い上げる物件のようで、極右思想やクリスチャン・アイデンティティ*2にはまる白人は米国内でも少数の変わり者なのだろうなと思われるのだが、その少数の割合は、日本でなら『正論』の愛読者程度はあるのかもしれないとも想像してしまう。くわしくは『終末と救済の幻想』を読んでください。
さて、ノルウェーのブレイビク容疑者なんだが、政府の移民政策に不満を持っていたらしいのはネット上に書き残した文章からうかがえるが、だからといってサマーキャンプに乗り込んで子供たちに向かって乱射するというのは狂っているとしかいいようがない。そして、この頭の中のずれ具合というのは、北朝鮮拉致事件やミサイル発射に抗議するといって朝鮮学校に向かう人たちのずれ方と似てるんじゃないかと思うと、異国の事件とはいえ気になってしまいますね。日本では自動小銃なんてものは一般人には簡単に手に入らないからいいようなものの、でも、1995年には自家製サリンをまいたカルトが日本にいたわけだし、産経ロマンも読む人によっては多大な影響を与えるかもしれず、あほらしいからといって無視してばかりもいられないのではないか。
それにしても、オウムの事件に未だにこだわってる文化人は、村上春樹くらいしか思いつかない。みんな忘れているのだろうか。