江戸川乱歩の 陰獣

DVDで鑑賞。
推理作家が変質者に狙われる令夫人を守ろうとする。
寒川(あおい輝彦)は本格推理小説にこだわる人気作家で、変格もので人気を博す大江春泥に対抗心を燃やしていた。ある日、寒川の小説の愛読者だという令夫人・静子(香山美子)から夫に言えない相談事を持ちかけられる。大江春泥から脅迫状が届いたというのだ。寒川は、令夫人を大江の魔の手から守ろうと動き出すのだが。……
乱歩の『陰獣』の映画化。時代色で固めた物語世界の中で妖しい雰囲気をよく出している。もっとも、『陰獣』を読んで思い描く世界は読んだ人それぞれですから、この映画がぴんとこないという乱歩ファンもいるでしょう。私は楽しめました。
冒頭の、エロチックな仏像を寒川が鑑賞しているところにふっと令夫人が現れ、通り過ぎる彼女に目をやると襟元から一筋の赤い傷が見える。あれでもうこの映画の世界に入れました。この映画版乱歩の世界にね。
たしかに、小説だともっと冷やかでもっともっと人間臭が希薄な、子供の頃集めたビー玉やラムネの瓶のガラスの色を思い出させるような透明な猟奇を自分では感じ取ってるから、映画と小説のおもしろさはまたちがってくるかもしれません。
香山美子がすごい、きれいな令夫人のまま変態的な表情になる、あの地続き感。マゾの闇と自己陶酔の噴出、それに巻き込まれる男たち。
乱歩ワールドを現出させるためにCGを使うというのはありだと思いますし、さらに濃密に描き出された乱歩の帝都東京を観てみたい気がしました。