アラビアのロレンス

イオンシネマ宇多津でのキネ旬映画祭で鑑賞。
イギリス軍人トマス・エドワード・ロレンスが率いたアラブ反乱を描く。
1916年。イギリス陸軍エジプト基地で勤務するロレンス(ピーター・オトゥール)は、文学を愛し、軍隊では変わり者と見られていた。アラビア語に堪能でアラブ人に対する態度も他のイギリス人とはちがっており、そこを見込まれてかオスマン帝国からの独立闘争をしているスンナ派のファイサル王子(アレック・ギネス)に会ってイギリスに協力させる任務が下る。ロレンスはベドウィンのガイドと共に、ラクダに乗って砂漠へと踏み出した。……
デヴィッド・リーンの名作。テレビで観たことはあったが、今回映画館で観られてほんとうにうれしいです。
広がる砂漠、砂の波、地平線の彼方の蜃気楼がやがて黒い人影となりそこから人が現れる場面など、アラブを舞台にしたからこそできたすばらしい絵に見とれてしまいます。ベドウィンの衣装をまとった男たちも皆美しい。戦争映画なのですが、時代と場所柄のせいで、西部劇と古代史劇と現代劇のおいしいところの持ち味を各々ちゃんと残しつつうまく料理した出来、歴史認識のほろ苦さもほどよい英国風味。
ベドウィンに闘争のリーダーと認められ、白いベドウィンの衣装を着せてもらったロレンスはまるで花嫁のよう、登場人物としては女が出てこないこの映画の中で、ロレンスはヒロインの役回りも帯びさせられ、彼に絡む男たちから艶も引き出します。
現在の中東情勢ができあがる発端がこのへんだったのかあ、という感想も持ちました。その一方で、ダマスカスやアレッポというのは新約聖書にも出て来る地名、紀元前からあのあたりはずっとああいう動きが続いているのでしょうね、緩急はあっても。荒海に囲まれた極東の島国の原住民感覚しかない私にはたぶんわからないものがありそう。
そういえば劇中で、ファイサル王子がロレンスに「君も砂漠好きのイギリス人なのか?」と問う場面があります。ファイサル王子はその後に続けて「アラブは砂漠は嫌うよ。花や緑を好む」と言うのですね。言われてみると、アラブの有名な建物には植物を図案化した装飾が壁一面によく見られます。噴水も好まれるようですね。
砂漠を渡るのは航海するのと同じ、方角をまちがうと死にます。だから、たぶん、遊牧民にとって、夜空の星で万人に正しい方角を示してくれる天の父の導きに従うことは、生きるために欠かせないこと、実際的なことでもあったのでしょう。
映画史に残る名作中の名作、また、現在の中東情勢について知りたいなあという人には、自分の勉強のとっかかりを見つけられるかもしれません。