フレンジー

DVDで鑑賞。
ネクタイ殺人鬼と誤解された男が真犯人に陥れられる。
リチャード(ジョン・フィンチ)は、空軍を除隊してからは不運が続き、離婚してパブに勤めていた。ある日、パブの主人に小言をいわれて腹を立てて勤めを辞めてしまう。友人のラスク(バリー・フォスター)は心配してくれるが、リチャードは結婚相談所を開いて成功している元妻に会いに行く。
そのころ、ロンドンではネクタイで女性を絞殺する連続殺人事件が起きていた。やがてリチャードの元妻もその事件の犠牲者となる。援助してくれた妻に再び会いに行ったが応答がなかったので引き上げるところを目撃されたリチャードは、犯人だと誤解される。
自分の無実を信じてくれたガールフレンドも殺され、リチャードは最後の頼みの綱となった友人ラスクに助けを求めるのだが。……
アメリカで仕事を続けていたヒッチコックが久しぶりにイギリスで撮った作品。ヒッチコックは絞殺に執着があるらしく、絞殺魔の出てくる作品が多い。スラッシャー映画「サイコ」はヒッチコック映画の中では異例なのだ。
冒頭、空撮でロンドンの街を捉え、テムズ河、ロンドン橋、が映り、英国臭い音楽が流れる。これは英国製ですよ、とばーんとかましてはじまる。やがてカメラはテムズ河の辺の一画をとらえ、近寄る。河の浄化を訴えるえらい人、やがて聴衆の一人が河を見ておどろく。首にネクタイを巻かれた裸の女の死体が浮かんでいる。
いい出だし、人々の会話もいい。すました顔でえげつないことをさらっとやるとそこにおかしみが漂う英国お得意の雰囲気が物語を包む。連続殺人事件には英国風味が合う。
この映画は何度観ても飽きないもののひとつだが、今回も、リチャードが元妻の結婚相談所から帰る途中で、その相談所に勤める女性に目撃される場面、死体を発見した女性の悲鳴が聞こえるまでの間、リチャードのガールフレンドが店を出て、その後ろからラスクが声をかける、その瞬間の強調、ガールフレンドを自分のアパートへと案内し中へ入れる際にラスクが漏らす台詞、その後すーっとカメラが二人が昇った階段をそのまま後ずさりしてアパートの外へ出るまでの無音の緊張感と、カメラが屋外へ出て街のざわめきが聴こえはじめる、何も気づかれていない光景の怖さ。
他にも、場面場面におはなしの世界が視覚的に表されており、映画で語る物語ならではの楽しさ、おもしろさが味わえる。
事件を追う刑事と奥さんのやり取りもいい。テレビではじめて観た時はおかしいとしか思わなかったけれども、大人になって観返すと、中年夫婦が嫌味を嫌味と聞こえないように言い合う、これも英国人カップルの得意技なのかもしれないが、しかしやはり仲はいいし、刑事さんはほんとうに有能だし、笑える中で捜査のあらましがちゃんと説明されるし、いやあすばらしい。
ジャガイモにまみれて女の死体と格闘する犯人もグロテスクなおかしみ。最後に犯人がトランクを運ぶ音が段々部屋へ近づいてくる効果もすごい。
語りだすととまらなくなりそうだが、サイレント時代から映画を撮り続けたヒッチコックの技術だけでなく古風な趣味がうまく活きた傑作だと私は思う。イギリスを舞台にしたのもよかったんだろう。