『世界』2024年1月号 松里公孝「正義論では露ウ戦争は止められない ウクライナからカラバフへ、拡大する戦争」

 

ウクライナの反転攻勢は失敗し、一方のロシアは愛国心の高揚に一定の成功を見せている。

 西側では、「ロシアはなんと無謀・残虐なことをしたのか」と批判されているのに、ロシアでは、「こんなことになるのなら、2014年にウクライナに全面戦争を仕掛けるべきだった」と後悔されているのである。対話の余地は全くない。
 ウクライナは軍事費どころか年金や公務員給与も西側からの援助で賄っている状況なので、案外唐突に停戦が実現する可能性もあると私は思う。むしろ危惧されるのは、露ウ戦争が環黒海コーカサスの火薬庫地帯に火をつけることである。すでに、露ウ戦争をきっかけに、1991年以降アゼルバイジャンから事実上独立していたカラバフは、建国後32年の歴史に幕を閉じることになった。
 以上の事情を踏まえ、本稿では、(1) ウクライナの反転攻勢、(2) ウクライナと西側援助国の間の亀裂、(3) ロシア内の好戦論、(4) カラバフの滅亡について述べたい。

(引用元:『世界』2024年1月号 p.69)

 現在研究のためサンクトぺテルブルクにいる著者の現地での生活雑感としては、銃後の市民生活は平時と変わらず、スーパーマーケットには商品が溢れ、カフェやレストランもにぎわっている。
 また、CNNなど西側の主流メディアは自局の記者がウクライナ兵士と共に塹壕に入って取材をし、ウクライナの苦境を連日伝えているが、それらにくらべると日本のマスメディアの楽観的な報道は浮いて見えるとのこと。
 すでに多数の死者・重傷者を出しているウクライナの現状を見ると、正義論をふりかざして停戦を拒むことは理に適ったことではないと説く。
 また、占領地の返還を持ち出してアゼルバイジャンに独立を認めさせようとしていたカラバフが、トルコとNATOの援助のもと軍拡を進めたアゼルバイジャンと、露ウ戦争のためトルコやアゼルバイジャンともめるのを避けるロシアの都合によって、孤立し崩壊した過程も述べられています。
 2018年四月革命によってアルメニアの首相になったパシニャンはジャーナリスト上がりの市民活動家で、それまでの共和党政権の権威主義と腐敗に憤る市民の支持を集めて首相になりましたが、軍事外交カラバフ問題には疎く、なにかもうポピュリズムの悪いところを煮しめたような展開が戦争を絡めて転がっていって、しかしそういう稚拙さを見せつけられたあとも議会選挙でパシニャンの政党が勝ち政権維持となるあたりに、その前の共和党政権の嫌われ方のハンパなさがたゆたって、闇の深さを味わえます。
 カラバフの人たち、パシニャンには何も期待していなかったけれども、かんじんなときにロシアが何もしてくれなかったことには心底幻滅したとか。……これ、日本に起こってもおかしくない事態かな、と思ってしまいました。
 このカラバフの成り行きは、NHKのドキュメンタリーで分かりやすく見せると日本人の興味を引くのではないでしょうかね(もうそういう番組は放映されていて、私が観ていないだけかもしれないが)
 くわしくは、『世界』1月号で読んでみてください。