星新一『妖精配給会社』新潮文庫

 

 

みなさんも一度は読んだことがあるだろう、星新一。この本の表題作である「妖精配給会社」は、スマホが手放せなくなった現在を予見している? と再び注目されています。

 この年齢になって読み返すと、主人公が老社員だというのが沁みてきますね。彼は耳が聞こえないので、甘くささやく妖精の効用は届かない。老社員という立場から、現状から一歩引いた立ち位置で世の中を眺めることになり、「あ……!?」となっても、でもまあどうでもいいか、自分にはどうでもいいかな、になってしまう。でも、そういう彼だから見えてくることもあるんだって。

 星新一は『声の網』でも、現在社会で起こりつつあることを予見しています。人間ってこういうものだよね、という、諦観から、人の世の真相を見通してしまう、そういうかんじでしょうか。『声の網』も、いまこそもっと注目されていい作品ですよね。