及川浩治「ショパンの旅2010」

ユープラザうたづで、及川浩治「ショパンの旅2010」ピアノコンサートがありました。7歳でポロネーズを作曲、神童と呼ばれたショパン。21歳でパリに出たとき、故国ポーランドはロシアに占領されてしまいました。故郷への思いを胸に抱いたまま異国で短い生涯を終えたショパンの人生をたどりながら、楽曲を演奏していきます。
全体に男性的パワーが漲る演奏でした。コンサートの構成は、歌舞伎にたとえるなら、前半が荒事で、後半が世話物、とでもいえばいいのかな。若いころ作曲した作品にはハードロック的な勢いがあるせいかもしれませんね。でも、世話物的世界でも、感情が高ぶるような調子になると、奏者にアドレナリンがビュッと出てるかんじ、まだ若い男性の力の強さが直裁に伝わってくるような演奏でした。
ヴァイオリンの音色が暖色だとすれば、ピアノの音色は寒色ですよね。そのせいか、音楽が劇的に盛り上がっても、暑苦しいかんじにはならない。
ロック・オペラを映画かテレビで観て、ロックはクラシックにくらべると音が薄いなと感じたことがあるのですが、ピアノ一台であれだけ深みのある音が出てくるのを聞くと、クラシックはすごいなとあらためて思います。舞台のグランドピアノの色が黒かったので、漆黒から薄墨まで、墨の色が多様に変化する眺めを連想しました。黒は無彩色ですが、見方によってはどんな色より強烈で派手で陰影に富みます。
しかし、私はショパンといえば「雨だれ」の、ほんとうに雨がぽつぽつ降っているようなところしか知らなかったことに気づかされたわ。曲をよく知らないのに加えて、ショパン、というカタカナ表記の名前の字面と音感のせいだろう、ショパンはもっと全体におとなしい繊細な世界だと勘違いしていた。クラシックの好きな人には笑われるだけだろうが、私にとってはぷち未知との遭遇ともいえるコンサート体験になりました。