あんにょん由美香

  • 2009年、日本
  • 演出・構成:松江哲明
  • 出演:林由美香、ユ・ジンソン、入江浩治、キム・ウォンボク、他

DVDで鑑賞。
2005年に急逝した林由美香の韓国ビデオ作品『東京の人妻 純子』の謎を追ったドキュメンタリー。
ドキュメンタリー監督・松江哲明は、生前の林由美香に会った際、「松江君、まだまだね」と言われたことがあるという。そんな女優・林由美香のことが気になっていたのだが、彼女が急逝したことでいっしょに仕事をする機会は永遠に失われてしまった。
彼女の死後出版された『女優 林由美香』によって、韓国産ビデオ『東京の人妻 純子』という作品にも出演していたことがわかる。この映画の中でも紹介されているが、珍品中の珍品。松江監督は、この作品について調べ始める。その過程で、生前の林由美香といっしょに仕事をした監督たちにも取材していき、林由美香という女優の幻も追っていく。取材の足は韓国にも伸び、『東京の人妻 純子』に関わった通訳、役者、監督に直撃。ついには韓国と日本のスタッフがいっしょになって『東京の人妻 純子』のラストを撮り直すというまとめになる。
林由美香といっしょに仕事をした監督とは、かつての作品でロケを行った場所に再度出向いて映像を撮る中で話を聞いている。会話しながらロケ地へと向かう、このあたりはロードムービー風で、日本の地方の風景、緑、たまたまそこにいた犬や山羊などが、絵として印象に残る。特に日本の緑は特有の質感があるんじゃないだろうか。
全体に、林由美香のことを語る男の顔のアップが続く映画で、見た目がむさい記録映画ともいえるのだが、合間で挟み込まれる林由美香の過去の映像と、その映像を撮ったロケ地に出向いた監督の映像が続くと、その場所で過去を思い出している男の脳内映像を外に出してきたみたいに見えたりしておもしろかった。
林由美香は、AV女優としてデビューし、その後はピンク映画を中心に活動していたとのこと。私はVシネに脇役で出ていたのを観た記憶があるのだが、それと雑誌で見た写真とインタビューが妙に印象に残っていた。一回見るとすぐ覚えられる顔の人で、目が大きくて特徴があり、強そうだがさびしそうにも見える。インタビューでの語りというのが、そういう写真から受ける印象を裏切らないものだった。とっぽい楽しさと同時にどこか投げやり感があり、そのせいで暑苦しいうっとうしさは皆無だが、根付きの弱さも感じられた。遺作となったのが、快楽亭ブラック初監督による小品「四谷怪談でござる」のお岩さん役というのも、妙に印象に残る女優・林由美香だなと思う。
この映画を見て思ったのは、林由美香は手や足の、手首足首へ向かう線がきれいな人だったのだなということ。また、韓国ビデオ『東京の人妻 純子』は、現在の韓流ブームを先取りして戯画化した作品のようにも見え、そうなると『純子』の監督が後にヨン様のデビュー作を撮っているというのもおもしろい偶然だと思えてくる。