ラバー

  • 2010年、フランス
  • 原題:Rubber
  • 監督・脚本:カンタン・デュピュー
  • 出演:スティーヴン・スピネラ、ロキサーヌ・メスキダ、ジャック・プロトニック、ウィングス・ハウザー、ロバート(タイヤ)

DVDで鑑賞。
アメリカ西部の砂漠地帯に転がったひとつのタイヤに生命が宿る。
ロサンゼルスに近い荒野。さまざまなゴミが転がる中に、一本のタイヤがあった。このタイヤがある日突然生き物となる。砂の中から立ち上がり、転がりながら、出会うものを観察しては踏み潰すタイヤ・ロバート。やがて、どうしても踏み潰せない瓶と遭遇。ロバートはそこで、全身を震わせて念じ、サイコキネシスで瓶を破壊してしまう。念力で物を破壊できるロバート。彼は転がりながら道路脇に出て、そこで魅力的な女の子が車を運転しているのを見かける。ロバートは彼女の後を追い始める。……
冒頭、アメリカの砂漠地帯に、黒っぽい色の椅子がこぎれいに見える間合いで並べられている。近くにはたくさんの双眼鏡を手にぶらさげた痩せた男。奇妙だがどこかおしゃれな眺め。このあたりにフランス映画の香りがし、やがて一台の大きなアメリカ車がやってきてきれいに並んでいた椅子を順番に引き倒していく。そして、車のトランクから警官が現れ、こちらに向かって一席ぶつ。これからはじまるのは、理由がないということへのオマージュなのだと。
カメラ目線で語りかける警官は、劇中では観客となる一団の人々へ説明をしているのだった。彼らは痩せた男から双眼鏡を手渡され、そこから遠方で立ち上がるロバートの活躍を観る役を果たす。さらに、彼らが観ているのは、現実なのか劇なのか、話の進行過程でゆらぐ。
映画全体に不条理感が漂い、それがとぼけた笑いにつながっていく。昔の吾妻ひでおのマンガをちょいと思い出させる風情があるけれども、フランス人がおつくりになっているせいか洒落たイメージに映ります。人の頭が吹き飛んだりもするんですが、スプラッター描写は控えめで、血糊の色も赤ワインみたい、なつかしのH・G・ルイスのゴアフィルムを思い出させるマネキン転がし残酷絵が、いまやレトロな味わいを醸し出すところを見せてくれます。
タイヤのロバートは生き物みたいに撮れております。スピルバーグが撮るともっと人懐こいかんじになったんでしょうが、このロバートは不条理劇の主役らしく余計な愛想は見せません。でも、たとえば、荒野の廃車置き場で古タイヤが燃やされているところに出くわし、金網越しに仲間が人間に虐殺されていくのをじぃっとにらんでいる場面など、全身から物言わぬ者の怒りが伝わってくるような演技ぶりです。
82分、ちょっと変わったタイヤが主人公のおはなし、いかにもフランス映画らしい台詞のやりとりが続くあたりは間延びした印象を受けた部分もありましたが、ロバートの魅力で最後まで楽しむことができました。
ロバートが一目ぼれする無愛想なタフガールを演じたロキサーヌ・メスキダ、よかったです。