ヒース・レジャーの演じたジョーカーなんだが

あれは少年マガジン脳の男子の目に映る、女という異類のわけのわからなさをグロテスクにデフォルメしたものだったのではなかったか。
日常では、女は男に受け入れてもらう方向で男をたぶらかすのだが、生き延びるために恒常的に擬態を強いられる立場にあたりまえのように置かれる女から見ると、男子が素朴に信じていられる正義も秩序も正常も、すべて虚妄、壮大なご都合主義にしか見えなくても不思議はない。
常に欺瞞を下支えした挙句にそれをしていることを嘲笑われるものが、もうそれはやめた、おまえらぶりっこの化けの皮を剥いでやる! と怨念とともに立ち上がると、あの「ダークナイト」のヒース・レジャー版ジョーカーになってしまうのではないか。
ジャック・ニコルソンの演じたジョーカーは、腹をくくったオヤジが確信犯として気狂いピエロになるわけで、バットマンはあきらかに敵という他者でいられるんだけれども、ヒース・レジャーのジョーカーは、自分の内面のなかったことにしたい部分だけを拡大して映し出す鏡のような存在としてバットマンの前に立ちはだかる。そして、彼が倒されることで男子は穢れを吹き払うし、ヒースのジョーカーに引きつけられた女子のもやもやも浄化されてしまう。
精根こめて役作りに打ち込んだ挙句、寿命を縮めたヒース・レジャーは、世界中のバットマン・ファンにとって人柱のような役割を果たしたのかもしれない。

追記

ダークナイト ライジング」では、ノーラン監督に縁の深い役者さんたちが何人もカメオ出演していたので、ヒース・レジャーも生きていたら、たとえば素顔でちょこっと出たりしたのではないのかと想像し、亡きヒース・レジャーを偲んでみました。
個人的には、「ダークナイト」のジョーカーしか印象に残らなかった俳優でしたが、それだけに、「ライジング」でも顔が見たかった気がします。
ダークナイト」でデント/トゥーフェイスを演じたアーロン・エッカートは、冒頭の死んだデント検事を偲ぶ場面で、遺影として写真で出演しておりまして、これは「仁義なき戦い」シリーズで、丹波哲郎がやくざの大親分として写真だけで出演したのを思い出させてよかったですよ。