村上龍「オールド・テロリスト」第二十九回 文藝春秋2013年11月号

生シラスをご馳走したいというミツイシにカツラギと共に連れて行かれた御前崎港近くの食堂で、関口はNHK西玄関テロの現場写真に笑い顔が写っていた太田と、文化教室で日本刀で人形の首を切り落としたカリヤに出会う。キニシスギオ一味だと思われるミツイシに浜岡原発の近くへ連れてこられているだけで不安になっている関口は、よりによってこの状況下で最も会いたくない人物が二人も目の前に現れたことで、極度の緊張から安定剤の上に酒を飲み、嘔吐。ミツイシら三人はそんなよれよれ状態の関口とカツラギを連れ、「太田製麺」という工場へと連行するのだった。……
嘔吐してしまった関口を介抱しながら、ミツイシ、カリヤ、太田の三人が「こいつでだいじょうぶか?」「ヤワだから逆にいいと思いました」などと話しているのが関口の耳に入ってくる。自分はこの三人によって何かの役を背負わされて使われそうだ、そう思いながら、どうすることもできない関口。
なぜかこの場面で、以前読んだ『トパーズ』の中の一編を思い出したが、あの話の中に出て来た傍目には幻聴持ちでしかない風俗嬢は、それがしかし彼女にとっては周りの状況を見通す能力にもなっており、そのおかげで危機を脱した。
関口は落ち込んでいるとはいえ、基本まとも、そのため周囲からは理解できないような何かによる助けが訪れる気配はなく、よれよれげろげろでも自力で何とかするしかなさそうだ。
唯一のなぐさめは、カツラギさんはミツイシらの一味とは無関係だと確信が持てたことか。心配そうに関口に声をかけるカツラギさんは味方だ。だが、カツラギさんは感受性は豊かだが、繊細なお嬢さんでしかなく、こういう状況になると、関口が守らなくてはならない存在でしかない。
ああ、でも、妙なアッパー老人に見込まれてから災難続きの関口が、その中で偶然にも出会えた予想外の素敵な存在、それが今のカツラギさんではないのか。
というわけで、関口、カツラギさんだけは守ってあげて欲しいぞ。
陽が落ちる頃、満州にルーツを持つという老人たちが集まった工場内がライトで照らされ、せりに乗って“スター”が登場する。続きはどうなるのか、ああこわい、でも、待てない! 続きを早く!