村上龍「オールド・テロリスト」第二十七回 文藝春秋2013年9月号

カツラギと同衾することになり、関口はあわてるが、カツラギさんはすぐにすやすやと寝息をたてはじめる。何事もないまま朝になり、共に朝食をとりに外出するが、これまでよりはカツラギとうちとけた雰囲気で会話できるようになり、関口にとっては不安を和らげることになった。
いよいよミツイシと会う日。カツラギを連れて緊張している関口の前に、ミツイシは白いカローラに乗って現れた。……
若い女性を身近に感じて、関口は自分の年齢を意識する。私は関口と同年代になるのだが、とくに歯が気になる、というのはリアルだと感じた。関口は記者時代不摂生が続き、歯磨きも怠りがちだったので歯周病で歯が抜けていったとなっているけれども、毎日歯磨きしていて虫歯にはなっていなくても、加齢と共に歯は弱りますね。磨くのはいいけれども、そのとき擦り減っていってたりしそうなんですよね。ま、この劇中では、関口は、ひょっとしたらカツラギさんとキスすることになるかも、ということで、普通以上に歯や口臭を気にしてしまっているわけですが(笑)。
そうして、急に具体的に老いを意識して、関口は、テロを起こした老人たちや、彼らに共感した山方のことを思い出し、なんとなく気持ちがわかるな、と、思ってしまう。
渡辺淳一失楽園」も、仕事仕事で忙しかった男が閑職に追いやられ、そのおかげでこれまで気がつかなかった自分の姿や周りの風景が見えるようになり、迫りくる老いや死を意識する、そういうおはなしだった。そして、「失楽園」の場合は、女性としての盛りが終わろうとしている年齢の美女との恋にのめり込んでいくのでしたね。
村上龍ワールドの登場人物たちは、老いを意識しテロに走ってるんですね。うん、おもしろい。そういう人たちもいないとね……と、テロリストに共感しているわけではないのですが、関口が、気持ちはわかるよ、でもね、と、そういうのとはちがう動きをどう見せてくれるか、だってねえ、カツラギさんがいっしょにいるんだもの、関口はそれをやらないとねえ。カツラギさんはまだこれからなんだしね。
ということで、次回が楽しみです。