- 作者: 内藤正典
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/01/16
- メディア: 新書
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混迷を極める中東に突如現れたイスラム国。捕虜の殺害や少数民族への迫害が欧米経由で厳しい批判と共に報じられているが、その過激な行動の裏にある歴史と論理は何か?
また、本書はイスラムそのものに対するメディアの偏見と、第一次世界大戦時に確立された欧米による中東秩序の限界を指摘。そして、集団的自衛権の行使容認で中東に自衛隊が派遣される可能性が高まる中、日本が今後イスラム世界と衝突することなく、共存するために何が必要なのかを示す。
(引用元:内藤正典『イスラム戦争』集英社新書 カバー)
目次紹介
はじめに:日本は決してこの戦争に参加してはならない
序章:中東で起きていること
おわりに:戦争は人の心の中で生まれる
あとがきより、著者のことば。
本書では、イスラム世界と西欧世界とのこれ以上の衝突を阻止するにはどういう知恵が必要かを書いてきました。学者というものは、難しい概念を持ち出したり、類型化をしたり、そういう仕方でものを書きます。私は、今、そういうものを書く気持ちになりません。私の研究者としての目的は唯ひとつ。これ以上、イスラム世界で人命が奪われないためには何が必要かを問い直す作業をすることにあります。そのメッセージはまず、市民に向けて発しなければなりません。なぜなら、ユネスコ憲章が言うように「戦争は人の心の中に起きるもの」だからです。
(引用元:内藤正典『イスラム戦争』集英社新書 p.250-251)
日本人人質事件を引き起こしたISが何故生まれたのか、そこまでの流れと状況を解説。日本ではあまり注目されてこなかった、シリア内戦の模様とアラブの春以降のエジプトの混乱もわかりやすく述べられている。
日本でのイスラム報道の偏りとそこから広がる誤解について指摘した第二章は、必読だろう。
思えば、中東やアフリカの現在の国境線は、かつて植民地として分割されたときの境界線がそのままになっており、それがもとで起きる紛争を解決するためには現況の国境線を見直すしかない、あるべき姿にもどしてから再建しないとだめだ、という発想が出てくるのはおかしいことではない。ISはそれを主張しているわけで、シンパが一定数出てくるのはそれなりに理由があるのだとわかる。
いったん分断されると、各々の勢力に利得ができるので、かんたんに統合できるものではないだろうけれども、ヨーロッパもEUという発想が出たわけだし、長い目で見ないといけないのでしょうね。
アサド政権の強かさもこの本を読んで知りました。
第四章では同志社大学が、アフガニスタンのカルザイ大統領を招いて開いた学生対話集会や、その後、タリバンとイスラム党を招いて開いた和平会議のことにも触れています。タリバン代表参加が実現したのは、ハサン中田の尽力が大きかったとのこと。また、日本がアフガニスタンには軍を派遣しなかったことも同志社大学に来てくれた理由のひとつだったそうです。
事件以降、イラクやシリアに関心が向いてニュース見るようになった方は読んだほうがいいです。
感想として
この先日本がどうしていくか、その参考例としてトルコが挙げられています。くわしくは本書をお読みください。
ただ、それとはべつに、この本で解説される中東の現在の様子を見ていると、今の東アジアにおける日本に似た像に見えてくるのは、現在の中東におけるイスラエルのたたずまいだったりはするのですね。
日本人人質事件を受けて、ちょうどイスラエル訪問中だったため、安倍総理がイスラエルとの共同記者会見をする場で人質事件について語ったとき、日本とイスラエルの国旗が並んでる背景になったのは、なんとも間が悪いという見方をした意見を、マスメディア上でもネット上でも散見しました。そういわれればそうかもしれない。
でも、じっさい似たもの同士なのは事実なんじゃないのか。それを自分が好きか嫌いか、または、いいか悪いか、そんなこととは関係なく、傍から見ればそう見えるだろうな、というのはしかたないのでは。
それを思うと、あの安倍総理の記者会見も、ISISハードコアの一環としてはこれ以上にないはまり方でおさまった映像になってしまってたのかな。なんかいろいろいってるけど正味こういうことだろ、と、ISISは露見させたのかもな。「だから、何?」 と、日本の大勢は思うだけだろうがね。
あのとき日本は、ISIS磁場に引きずり込まれていたのかもしれない。うん、やはりあなどれないぞ、IS。