2013年のワインスタイン

小林信彦『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』文藝春秋*1に「アカデミー賞オバマ夫人」という題で、小林信彦WOWOWで視聴した2013年第85回米アカデミー賞授賞式評が読めるのだが、そこに現在“渦中の人”となってしまっているハーヴェイ・ワインスタインの名前が出てくる。
2013年、アカデミー賞作品賞は「アルゴ」。その作品賞受賞の一場面について小林はこう書いている。

作品賞のプレゼンターは、肥満したジャック・ニコルソン――と見せて、ホワイトハウスのミシェル・オバマ大統領夫人になる。封筒から紙を出して「アルゴ」と読み上げる。
これは1979年の在イラン米国大使館人質事件を題材にした映画なので、イランのホセイニ文化・イスラム指導相が「アルゴ」の受賞を批判した。
「イランに敵対的なこの映画には芸術的な側面が完全に欠けている」
これについては多くの賛否の論があるが、オバマ夫人を呼び出すのを考えたのは、大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン民主党支持者)の娘だという。
ぼくが感じたのは、ジャック・ニコルソンでは弱いので、視聴率をとるために演出したような気がするが、いささかやり過ぎではないか、というもの。司会者が自身がなく、視聴率のことを気にしすぎていたせいもある。
# 本では最後の段落の「やり過ぎ」に傍点がふられています
(引用元:小林信彦『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』文藝春秋 p51)

これを読んで、2013年あたりはまだワインスタインブイブイ状態だったのかなあ、と思った。この後、プロデューサーとしての勢いに陰りが出て、ミラマックスから離れて兄弟会社を設立したりしていたがもはやピークを過ぎ、落ち目になった印象で、ここへ来てセクハラ告発が相次ぎバッシングが続いているのはそのせいもあるのだろう。
上のエッセイで小林信彦アカデミー賞を「裏では、かけひきがある生々しい祭典」と評していたが、アカデミー賞獲得も含めてビジネス面でミラマックスは強引なやり方をするといわれていた。それで、ワインスタインは敵も多かったのだろう。
大物プロデューサーとはいえ、ニューヨーク出身のインディーズ上がりで、映画賞の式典などでやたら顔が出てくるのも、他の大会社のおえらいさんはああいう場で写真撮られたりしてるのはまず見かけないので、ハリウッドでは成り上がり者だったんだろうし、私はなぜかワインスタインを見ると70年代の梶原一騎を思い出してしまうのだが、ある意味映画バカ一代、己の才覚だけで一時代を築いた男だったのだ。
私的にはワインスタインは、映画プロデューサーとしては才能があり、弟のボブよりも、兄のハーヴェイのほうがずっといい、そんなかんじ。
ワインスタインの件でタランティーノがコメントして、「知っていたのに何も言わなかったのか」と怒られるようなことになっているのをネット上でよく見かけましたが、ワインスタインがいなければ今のタランティーノはないのだ。それに、報道を見る限りでは、あれはどう考えてもいっしょに仕事をしていた人たちは皆気づいていたが、何も言わなかった/言えなかった、ということ。
タランティーノのあのコメントを読んで、タランティーノっていい人だな、と思った人は私だけではないだろう。しかし、今、そうは言えない、言わないほうがいい。特に、ツイッターではね。