脳梗塞で倒れ、急性期病院からリハビリ病院へ。幸い脳と利き腕である右手は無事で原稿は書ける。しかし退院後、2回自宅で転倒し骨折、急性期病院からリハビリ病院へをくり返すことになる。
「八十四年にわたる私の人生で、もっとも死に近づいた期間」の体験をつづった、エッセイの名手による手記。
夢、もうろうとした記憶、次女のメモ、作家の目による観察が絶妙に配合された生々しい小林信彦節が堪能できる。リアル『瘋癲老人日記』の趣もあり、プリンスのリハーサル録音のような味わいが。
入院患者の目から見た急性期病院やリハビリ病院の描写は、吾妻ひでお『失踪日記2 アル中病棟』のようなおもしろさもある。
「文庫版のためのあとがき」では、テレビで観たヒッチコック「鳥」にさらりと触れていて、小林信彦のエッセイをもっと読みたいなあと思った。文春オンラインに不定期でも載せてもらえないものだろうか。
くわしくは本を読んでもらうとして、トリビア的に得られた情報を2つ。
バッチリできた、などと言うときに使う「バッチリ」という「旧日本橋区のコトバ」が全国区になった嚆矢は青島幸男だとのこと。
そして、「コ・ボレーヌ」という尿瓶があるのですね。