『世界』2022年2月号 中村一成「京都・ウトロ地区放火事件 問われる「ヘイト犯罪」への対応」

 

 

2021年8月30日、ウトロ地区で空き家が放火され、住宅や倉庫など七棟が全半焼した事件のレポート。
 人的被害がなかったのは不幸中の幸いでしたが、そのせいか事件は大きく報道されることのないまま過ぎています。
 逮捕された男は容疑を認め「日本人の注目を集めたくて火をつけた」と供述しているとのこと、いわゆる「ヘイトクライム」であったと見ていい。
 中村一成は「ついに日本のヘイト犯罪はここまで来てしまった。十年余、ヘイト問題を取材してきた一人としての実感だ」と書いています。
 くわしくは『世界』2月号を読んでみてください。
 
 『世界』2021年12月号の辛淑玉「「ニュース女子」事件とは何だったのか」ともつながりますが、日本ではヘイトクライムが大きく取り上げられることがない、そのせいで、一般に広く社会問題として共有されないという面が、たとえばアメリカやヨーロッパに比べると大きいようですね。文化背景のちがいもあって、欧米流儀をそのまま持ち込んでもうまくいかないというのはあるでしょうが、だったら日本流のやり方でヘイトクライム対処をしなければならない。


 以前は、はてなブックマークでも、在特会の所業が「これはひどい」物件として注目され、こういうヘイトをやめさせなければというコメントが並んだり、また、ヘイト勢へのカウンターデモが話題を呼んだりしてましたが、近年はてなブックマークではヘイト関連の記事が目立って上の方に来ることは減った印象があります。
 しかしそれは、ネット上では棲み分けが進んだせいで、中村一成辛淑玉の記事によればネトウヨが集まる場所はかえって増えているとのこと。ネット上でのヘイトは以前よりひどくなっているそうです。
 ネットの規制が強まるのはよくない、というのはそうなんですが、「ニュース女子」事件やウトロ放火など実際に被害が出ているのですから、在日ヘイトに関してはもっと問題視して対策を講じるべきなのではないか。
 
 『世界』2017年11月号の中村寛「<周縁>の「小さなアメリカ」第2回 変わりゆく黒人たちの<抵抗> 藤永康政との対話」は、2016年トランプ大統領登場の中での黒人社会の動きが主題ですが、2015年に始まった「ブラック・ライヴズ・マター」が2017年には下火になってしまっていた、運動自体が悪循環にはまった印象がある、と語られていました。
 それがまた隆盛となったきっかけが、ジョージ・フロイドさん死亡事件だったのか。しかし、私にとってはあの事件は、ネットに無思慮に放り上げられたショッキング動画が炎上し、リアルにまで延焼した出来事との印象が強烈で、法廷で判決を言い渡されながら目をぱちぱちさせていた白人警官の顔が脳裏に焼き付いた事件になってしまっています。炎上後に出された警官到着からの経過を記録した動画から伺える状況は長年堆積した黒人差別の前には塵芥のようなものとなった。
 2017年に『世界』で連載されていた桐野夏生「日没」では、主人公の小説家はヘイトスピーチ法を根拠に監禁されることになりました。読者からネットのフォームで寄せられた苦情がもとです。ネットを国家権力が巧みに利用して言論統制を図るディストピアを描いた作品でしたね。
 これ以上日本でヘイトクライムが広がらないよう、どうすればいいのか。表現規制や監視社会化を避けつつ、それはできるのだろうか? 
 
 NHKラジオ「まいにちフランス語」2019年度後期の応用編、清岡智比古・フロランス メルメ・オガワ「フランスで『世界』と出会う」は、アジア、アフリカ、東欧など様々な出自のフランスで生きている人々を取り上げ、多様な人々から成る現在のフランス社会を学べる講座でした。ほとんどがフランスで明るく充実した日々を送っている人たちの話でしたが、2019年12月号に出てきたパリで生まれ育ったユダヤ人のナタンだけが、フランスに住みづらくなって悩んでいました。近年反ユダヤ主義が再燃したせいで、ユダヤ人コミュニティへの襲撃事件も起き、イスラエルに移住する知人も出てきたとのこと。
 くわしくはNHKテキスト「まいにちフランス語」2019年12月号で読んでみてください。

 

 

 

また、前に読んだ次の本も思い出しました。