村上春樹『街とその不確かな壁』新潮社

 

 ぼくが17歳できみが16歳のとき、ふたりで作り上げた高い壁で囲まれた街。ぼくはいまその街へ導かれ、自分の影を引きはがされて < 夢読み > の役を務める。図書館には16歳のきみがいるが、外の世界のぼくの記憶は持っていない。壁に囲まれた街での暮らしに慣れてきたころ、ぼくから引きはがされた影が死にかけていることを知り、ぼくは自分の影を救おうと試みる。……
 
 この世とあの世、夢とうつつが交錯する物語世界で、昔読んだ児童書のさし絵を思い出させる情景の中を生きる登場人物の呼吸に自分を重ね合わせれば、自らもこの物語の世界を生きられる。普段はないことにしている息吹が芽生えだす。そしてこの長い物語を通り抜けたとき、壁抜け効果によって無用なこだわりから解放される。垢が落とされ再生する。
 あとがきによれば、もとになったのは四十年前に書いた中編だそうで、ある歌舞伎役者が「私も七十になって、やっとあのお小姓の役がちゃんとやれるようになりました」と言っていたのを思い出した。
 スティーヴン・キングの長編小説を楽しめる人ならふつうに読めるだろう。『街とその不確かな壁』は日本語で書かれたすばらしい物語です。
 
 
 へんなたとえになるんだけれども、極私的には、村上春樹紫式部; 村上龍清少納言; みたいなかんじになるかなって。ちょっとそんな気がした連休の読書体験、私としてはどちらもそこにいて欲しい作家なんですね。