アルジェの小都市オランでペストが発生、市は閉鎖される。外界と遮断された市民が病魔から解放されるまでの苦闘を描く。
星新一とドストエフスキーをブレンドしたような読み心地でした。
閉鎖空間で災禍にみまわれ右往左往する人々の様を淡々と描くあたりは星新一風、書き手が登場人物に向けるまなざしの基調にあたたかみを感じさせるところはドストエフスキーに通ずるものがあります。
不条理に直面した人々が見せる弱さや愚かさを断罪せず、それも人間性の一部として受け入れる姿勢、とにかくも人は生きていき、生きていく中で良きものも生み出すことを認め、全体としては人が生きることを肯定する物語だったと私は受け取りました。諦観に裏打ちされた世界観なのでしょうが、生者の世は常に死者とセットになっていますからね。
郵便も止められてしまったオラン市民が外界と交信する手段は文字数が限られた電報だけになってしまうんですが、今ならツイッター使うんでしょうね。そうすると、この話よりは外界とも交流できそうな気もしますが、医師が遠方から放送されるラジオを受信して、自分たちのことが忘れられていないことに安堵しつつも、現場から遠く離れた場所にいる人にはやっぱりわかってもらえないんだなと絶望感を覚える場面もあるので、何とも言えないですね。
後半部分で医師リウーと異邦人タルーが語り合う場面は、村上春樹『羊をめぐる冒険』で主人公と鼠の対話を思い出さされました。
鼠といえば、この物語はある朝ネズミの死骸が見つかるところから始まり、そしてふたたび町にネズミが戻ってくるところで終わります。子年に読むのにふさわしい小説かも。