2024年3月5日、京都地裁にていわゆる「ALS嘱託殺人事件」の主犯格とされる大久保愉一(よしかず)被告に対して懲役18年の実刑判決が下り、判決文では「被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と断ぜられた。
この事件はマスメディアで「ALS嘱託殺人事件」と呼ばれているので、ALS嘱託殺人にのみ焦点があたり、そこから安楽死についての意見がSNSなどに書かれることになる。この記事の著者はこれまでも『世界』で安易な想像から安楽死について語る人が多いことに苦言を呈しているのだが。
そして、大久保愉一被告の今回の裁判では三つの罪が同時に審理されたことが忘れられがちだ。
今回の裁判では
1) 殺人罪(2011年、知人である山本直樹被告の高齢で精神障害のある父親を殺害)
2) 有印公文書偽造罪(東北大学病院の医師を騙り、スイスの自殺幇助団体あてのメディカルレポートを作成)
3) 嘱託殺人罪(SNS上で安楽死を望んでいたALS患者・林優里氏に致死量の鎮静剤を投与)
が審理され、それらの罪すべてあわせての「懲役18年」という判決になった。この中では、第一の殺人罪が最も量刑が重く、判決文でも「懲役15年は下らない」と記されている。
著者は今回の集中審理10日のうち7日ほど傍聴、またこの裁判にあわせて記者会見を開いた障害者や難病者を支援するメンバーでもあった。その立場から、裁判についてレポートしてくれている。
くわしくは『世界』5月号で読んでもらうとして、今回は前編、来月号には後編が掲載されるとのこと。
後編では、まず被告人質問で明らかにされた被告自身の被虐待体験、「自分なんかいないほうがいい」という感覚、自閉症スペクトラムなどの複合的な観点から、大久保被告の「生い立ち」や「死を迎える人への共感」について触れたい。次いで法廷で語られたALS嘱託殺人事件についていくつかの論点を検討し、また障害者団体としての見解にも言及しつつ、裁判全体として断定された「生命軽視の姿勢」についてより理解を深めることができたらと思う。
(引用元:『世界』2024年5月号 p.111)
記事によればこの裁判では多くのメールのやりとりやツイートが証拠となっている。このへんは、アマゾンプライムヴィデオで観られる「デジタル・エビデンス」というアメリカのドキュメンタリー番組を思い出さされました。